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じゃん・けん・ぽん!!

第16章 暗中躍動

 校門の陰からなら、こちらの様子を見ることができる。
「今のが、なんだか分かるのか、晃仁」
 分かるよ――と晃仁は答えた。そして、
「あれは――」

 飛縁魔さ――と言った。

「ひのえんま」
 なんだそれは――と健人は眉を歪める。
「そういえば晃仁、おまえ、前にもそんなこと言ってたな。なんなんだ、その、ひのえんまってのは」
「昔から伝わる怪物さ。男の血を吸って殺す吸血鬼みたいなものだよ。でも、その正体を知っていれば怖くない。健人はあの光を追ってほしい」
「それは、まあいいけど、おまえはどうすンだ」
「僕は、これを会長に渡してくるよ」
 晃仁はそう言って、さっき下駄箱の隙間から取り出した紙きれを、ひらひらと振って見せた。祐子が、父へ宛てた手紙だ。
「そうか。わかった」
「きょうはありがとう。それじゃあ、また明日」
 そう言って、晃仁は裕子の元へ走った。
 じゃんけんでの決戦は、今のところ一勝一敗の引き分けで中断されている。三回戦目は、まだ行われていない。二回戦を終えたところで、休み時間が残り少ないからと教師から注意が入って、取りやめになったのだ。だから残りの一回戦は、明日の昼休みへ持ち越されることになった。
 これまでは、謀略と思惑と信頼と裏切りと――さまざまなものが渦巻いていた。二回戦目までの戦いは、その中での戦いだった。でも、最後の一回戦くらいは、そういうどろどろとしたものから離れて、清々しく戦ってほしい――それが晃仁の思いだった。健人にも、裕子にも。
 そのために、手紙を回収したのだ。これがなければ、裕子も負けることを恐れずにすむ。恐れるものがなければ、戦いにも楽に臨めるだろう。そう思ったのだ。そして健人も、さっきの騒動を通じて、妙なしがらみから開放されるだろう。そうなってほしいと、晃仁は思う。
 その上で、祐子と健人には戦ってほしい。それが、晃仁の願いだった。しかし――。
 その願いは――。

 永遠に叶うことはなかった。

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