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じゃん・けん・ぽん!!

第18章 毒牙を持つもの

 実際、自分の思い通りにならない男は、ほとんどいなかった。喜ばせることも、怒らせることもできた。悲しませることも、楽しませることだってできた。時には焦らせたり、また安心させたりもした。それで金品をせしめたことだって何度かある。小学生の時から、男を篭絡するいくつかの手段を体得していた詩織にとって、いつしか男を思い通りにすることは一種の使命のようなものに変わっていた。篭絡した男の数が、多ければ多いほど自分に価値を感じることができた。そして、もし思い通りにならない男がいると、それがたった一人だったとしても、著しい不安を詩織は感じるのだった。
 詩織が下駄箱の交換を望んだのも、その〝使命〟を果たすためだった。下駄箱のすべてを交換してほしい――そんな無理のある要望を出したのも、もしその要望を通すことできたとすれば、自分のおおいなる自信に繋がると思ったからだ。
 逆に言えば、詩織は自信を失っていたのだった。理由は簡単だ。自分の思いどおりにならない男がいたからだ。
 その相手は中学の頃から同級生で、今も同じ教室ですごしている。彼だけは、どうしても振り向かせることが出来なかった。その相手の名前は――。

 西岡晃仁――。

 喜怒哀楽恐怨恨嫉妬とさまざまな感情面から揺さぶりをかけてみたのだが、びくともしないのだ。それが――。
 悔しかった。
 高校へ入学したら、その悔しさを消すために、多くの男を虜にしようと考えた。〝大勢の男〟を落とすことで、晃仁を落とせなかった悔しさを相殺しようと考えたのだ。しかし――。
 どうやらその思惑も失敗しそうだ。それも、晃仁の智謀によって――。
 詩織もさまざまな妨害を試みたが、晃仁にはほとんど通じなかった。
 ――どこまで。
 どこまで私から自信を奪う気だ――そう思うと、悔しくて涙が出る。唇を噛みちぎりたくなる。しかし、どうやっても晃仁は篭絡できないのだ。そればかりか、むしろ邪魔をしてくる始末だ。
「くそッ」
 思わず吐き捨てた。普段は絶対に表に出さない一面だった。

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