テキストサイズ

じゃん・けん・ぽん!!

第18章 毒牙を持つもの

 その不安と同時に、またいくつかの疑問が湧いてきた。
 ――なぜ下駄箱の交換を希望するものが、生徒会を揺るがすほどに増えたのだろう。
 ――なぜ手紙を回収する時に襲撃を受けたのだろう。
 ――なぜ襲撃を受けることを晃仁は予想することができたのだろう。
 ――なぜ。
 なぜ、なぜ。
 なぜ、なぜ。なぜ。
 なぜなぜなぜなぜなぜ。
 そして――。
 健人はひとつの考えに至った。

 飛縁魔――。

 健人が、下駄箱交換の要望を申し出た時、自分でも押し隠してはいたが、心の底には確かに詩織の姿があった。この、儚い硝子人形のような華奢な少女の姿が――。
 何かというと力になってやりたいという思い――いわば庇護欲とでもいうようなものを感じるのだ。もし、健人がその思いを抱いていることを、詩織が知った上で頼みごとをしていたとするならば――。
 もしそうだとするならば、晃仁の言った通り、まさしく健人は毒牙にかかっていたと言える。そして、もしそうだとすると、健人以外の男子生徒も――もしかしたら男性の教師の何人かも――毒牙にかけることは容易いのではないか。そんな気がする。
 考えてみれば、下駄箱交換派の構成員は、ほとんどが男子生徒だった。襲撃してきたのも、みんな男子生徒だった。
 もし詩織が、自分の容姿がどんな影響を人に与えるのかを熟知しているのだとすれば――。
 ――怖い。
 根源的な感情が胸の内に湧く。
 もちろん、証拠があるわけではない。
 しかし、これ以上関わってはならない――そう感じた。
「ごめん、じゃあ」
 健人はそう言い残すと、詩織に背中を向けた。そのまま、自宅に向かって歩き出した。
 詩織から呼び止められることは、なかった。

 ※

 ――ばれたのかな。
 遠ざかっていく健人の大きな背中を眺めながら、詩織は歯噛みしていた。
 完璧なはずだった。自分の容姿には自信があった。どう振る舞えば、どう思われるか、どうすれば欲求を煽ることが出来るのか――そういうことはすべて分かっていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ