じゃん・けん・ぽん!!
第19章 じゃん・けん・ぽん!!
【じゃん・けん・ぽん!!】
夏が終わった。
もう九月もなかばだ。夏の余韻はもうない。蝉の声も、地面を焼くかのようなあの日差しも、今はもうない。
なくなったのは、それだけではなかった。
池田裕子の命もなくなった。見舞いに行く暇もないほど呆気なく、祐子の命は尽きた。
あの日――グラウンドの真ん中で、健人が裕子とじゃんけんで戦った日のことだ。その日は健人が祐子の書いた手紙を回収した日であり、下駄箱で襲撃された日であり、その後、詩織が化け物のように見えた日でもあった。その日に――裕子は死んだ。
交通事故だったらしい。
下校途中の裕子は、前方から走ってきた大型車に撥ねられたのだそうだ。すぐに救急車が駆けつけて搬送されたものの、すでにその命は尽きていたという。即死だったそうだ。
すでに葬式も済んだ。闊達で、美しくて、利発で、少しばかりわがままで、頼りない、あの生徒会長は、もういないのだ。葬式では、白い着物を着せられて、顔に白い布をかけられた姿を、僅かながらに健人も見ている。しかし、素顔を見ることはなかった。
とてもではないけど見せられない――。
そう遺族に言われたのだ。
だから、健人と晃仁と学は、焼香だけすませて帰ってきた。静寂の中に響く啜り泣きの声は、外へも響いてくるくらいだった。
その後、生徒会では事務的な手続きだけが行われたという。残りの半年間、誰が裕子の代わりとなって生徒会長を務めるか――その決定だ。
副会長がそのまま繰り上がる形で生徒会長になるという話だったが、それを副会長は断ったのだという。副会長はなんとか務まるが、生徒会長にはなれない――そう言ったのだという。それで仕方なく、という形で選ばれたのが、どういうわけか馬渕学だった。
今は、馬渕学が生徒会長の座に着いている。貫禄もあるし、物事に公平だから、誰も文句をいう者はいなかった。
夏が終わって、また裕子の命も失われたが、それでも裕子の意思は、まだ息づいていた。
夏が終わった。
もう九月もなかばだ。夏の余韻はもうない。蝉の声も、地面を焼くかのようなあの日差しも、今はもうない。
なくなったのは、それだけではなかった。
池田裕子の命もなくなった。見舞いに行く暇もないほど呆気なく、祐子の命は尽きた。
あの日――グラウンドの真ん中で、健人が裕子とじゃんけんで戦った日のことだ。その日は健人が祐子の書いた手紙を回収した日であり、下駄箱で襲撃された日であり、その後、詩織が化け物のように見えた日でもあった。その日に――裕子は死んだ。
交通事故だったらしい。
下校途中の裕子は、前方から走ってきた大型車に撥ねられたのだそうだ。すぐに救急車が駆けつけて搬送されたものの、すでにその命は尽きていたという。即死だったそうだ。
すでに葬式も済んだ。闊達で、美しくて、利発で、少しばかりわがままで、頼りない、あの生徒会長は、もういないのだ。葬式では、白い着物を着せられて、顔に白い布をかけられた姿を、僅かながらに健人も見ている。しかし、素顔を見ることはなかった。
とてもではないけど見せられない――。
そう遺族に言われたのだ。
だから、健人と晃仁と学は、焼香だけすませて帰ってきた。静寂の中に響く啜り泣きの声は、外へも響いてくるくらいだった。
その後、生徒会では事務的な手続きだけが行われたという。残りの半年間、誰が裕子の代わりとなって生徒会長を務めるか――その決定だ。
副会長がそのまま繰り上がる形で生徒会長になるという話だったが、それを副会長は断ったのだという。副会長はなんとか務まるが、生徒会長にはなれない――そう言ったのだという。それで仕方なく、という形で選ばれたのが、どういうわけか馬渕学だった。
今は、馬渕学が生徒会長の座に着いている。貫禄もあるし、物事に公平だから、誰も文句をいう者はいなかった。
夏が終わって、また裕子の命も失われたが、それでも裕子の意思は、まだ息づいていた。