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じゃん・けん・ぽん!!

第19章 じゃん・けん・ぽん!!

 今、健人は演説台の上に立っている。正面には、あらたな生徒会長となった学が立っている。
 健人と学は、演説台の上で、向き合って立っている状態だ。
 演説台のまわりには、夏のあの日のように、全校生徒のほとんどが押し寄せている。
 そう、まだ戦いは終わっていないのだ。下駄箱交換派と、空調設置派の対立は、いまだに続いている。
 あの夏の日の戦いは、一勝一敗で引き分けたまま、まだ蹴りが付いていない。
 その決着を付ける機会が、ようやくやって来たのだ。
 かつて祐子が立っていた場所に、今は学が立っている。健人から見れば学は上級生だ。それに、体格も学のほうが遥かに上回っている。しかし、それで怖気づく健人ではなかった。

「そろそろ、いいでしょうか」

 副会長が、声をかけた。
「いいです」
 健人と学は、同時にそう返事をした。
 ――いよいよだ。
 健人は拳を握った。

 ※

 ――絶対に私の思う通りにしてやるんだから。
 今にもじゃんけんが始まろうとしている様子を見ながら、伊藤詩織はそう考えていた。この対立は、もともと詩織の企みから起こったことだ。詩織の容貌と、その効果を最大限に発揮すること、それで男を思うままに動かすこと、そうすることで自分の自信に繋げるための、絶好の機会なのだ。それを――。
 ――それを。
 それを、じゃんけんなんかで決められてはたまらない。運などではなく、あくまで詩織自信の意思によって決められないといけない。
 ――絶対に邪魔してやる。
 詩織は、学と健人が対峙する演説台に向けて、駆け出した。いや、駆け出そうとした。
 駆け出す直前に、肩を掴まれて足を踏み出すことができなかったのだ。
 ――こんな時に。
 舌打ちしたい気持ちを抑えて、詩織は振り向いた。詩織の肩に手をかけていたのは――。
 晃仁だった。
 ぎょっとして思わず距離を取る。
 中学生の時からそうだが、晃仁は童顔だ。

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