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じゃん・けん・ぽん!!

第5章 かじか

「見抜かれると、どうなるんだ」
「グーを出すことが分かる」
「はあ?­ なんでだよ」
「わからないかな」
 晃仁は、また烏龍茶をひと口飲んだ。そしてひと息ついて、ふたたび語り始めた。
「緊張していたら筋肉がこわばる。筋肉がこわばっていたら、パーやチョキより、グーを出しやすくなる――と思わないか」
「なるほど」
 健人は腕を組んだ。昨日のことを思い出す。確かに緊張していて、体は固くなっていた。自然と指にも力が篭っていたかもしれない。確かに緊張している時は拳を握り締めがちだ。だからグーが最も出しやすいのかもしれない。それを見抜かれていた――と晃仁は言っているのだろう。
 でも分からないことがある。
「二回目はどうなるんだ」
 健人が緊張していることを見抜いてグーを出すことを予想したのは分かるが、だとすれば二回戦目で健人が敗北した理由がわからない。
「二回目は、俺はパーを出して負けたんだ。これはどうやって推測するんだ。偶然か」
「まあ、偶然もあるかもしれないけど、おそらく消去法だね」
 と晃仁は若干考え込むように、眉間に皺を寄せて答えた。
「消去法って、どういうことだよ」
「まず、ひとつの前提がある。それは、じゃんけんを連続で行う場合は、同じ手を連続で出す可能性は低いということ。とすると――」
 晃仁は茶色に染めた髪を人差し指で掻く。
「グーはすでに出しているわけだから、次は残りの二つ――つまりパーかチョキ――を出してくると考えられる。そうだとすれば、チョキを出すだろう。チョキとパーだけなら、チョキを出せば最低でもアイコには持ち込めるわけだからね」
「すると二回目は、アイコになっていた可能性もあるっていうことか」
「そういうことだと思うよ」
 晃仁の説には頷けるものがあった。もちろんそうだという確証はないが、じゃんけんにも戦法があるとすれば、そのような道筋になるのだろう。
 健人は、なるほどなあ――とぼやいてから、紅茶を飲み干した。
 仮に会長がそこまで考えているのならば、どうすればそれに対抗できるだろう。たかがじゃんけんだから拘ることではないが、会長がそこまで読みを入れてくる人物だとすると、ちょっと面倒なことになりそうだと思った。なぜなら――。

「あの――」

 不意に声をかけられた。背後からだった。
 

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