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じゃん・けん・ぽん!!
第5章 かじか
振り返ると、暗い雰囲気の少女が立っていた。
肩口で切りそろえられた厚ぼったい黒髪と、度の強い眼鏡。小柄で華奢な体。
「ええと――」
咄嗟に名前が出てこない。
「伊藤です。伊藤詩織」
少女のほうが先に名乗った。雰囲気が暗いから、名前を覚えられにくいのだろう。
「なに」
この華奢な少女を見ると、なんだか胸の内が騒ぐ。
詩織は少し猫背気味になっており、両手を胸の前で合わせてもじもじとしている。健人は、昨日祐子と対峙していた時の自分を思い出す。緊張しているのだろうか。
「どうしたの」
なるべく優しい声を健人は出した。
「下駄箱の件なんですけど」
消え入りそうな声は、まるでそよ風のようだ。
「聞き入れてもらえるんでしょうか」
と詩織は言った。白い頬が、ほのかに桃色に染まる。健人は唾を飲んだ。
「あ、ああ。大丈夫。きっと大丈夫」
まるで根拠はないけど、そう言った。
「ありがとうございます」
詩織はぺこりと頭をさげると、お願いしますと言って、小刻みな足取りで健人のもとを去っていった。会計をすませ、店を出ていく。
その姿を見送っていた健人は、顔に妙な痛みを感じていた。
「なに鼻の下伸ばしてるんだよ」
と、向かい側の席から晃仁が言った。
「別に」
健人は鼻をこする。顔に痛みを感じていたのは、慣れていない愛想笑いという奴を浮かべていたからだと、その時はじめて気がついた。表情筋が引きつっていたのかもしれない。
「それより健人」
「ん」
「会長さんがコールドリーディングを使うと分かったなら、今度こそ勝てるかもしれない」
「別にじゃんけんで再戦を申し入れるつもりはないよ」
「そうなの」
晃仁はなぜか意外そうに目を見開いた。再戦を前提に晃仁は考えていたらしい。
肩口で切りそろえられた厚ぼったい黒髪と、度の強い眼鏡。小柄で華奢な体。
「ええと――」
咄嗟に名前が出てこない。
「伊藤です。伊藤詩織」
少女のほうが先に名乗った。雰囲気が暗いから、名前を覚えられにくいのだろう。
「なに」
この華奢な少女を見ると、なんだか胸の内が騒ぐ。
詩織は少し猫背気味になっており、両手を胸の前で合わせてもじもじとしている。健人は、昨日祐子と対峙していた時の自分を思い出す。緊張しているのだろうか。
「どうしたの」
なるべく優しい声を健人は出した。
「下駄箱の件なんですけど」
消え入りそうな声は、まるでそよ風のようだ。
「聞き入れてもらえるんでしょうか」
と詩織は言った。白い頬が、ほのかに桃色に染まる。健人は唾を飲んだ。
「あ、ああ。大丈夫。きっと大丈夫」
まるで根拠はないけど、そう言った。
「ありがとうございます」
詩織はぺこりと頭をさげると、お願いしますと言って、小刻みな足取りで健人のもとを去っていった。会計をすませ、店を出ていく。
その姿を見送っていた健人は、顔に妙な痛みを感じていた。
「なに鼻の下伸ばしてるんだよ」
と、向かい側の席から晃仁が言った。
「別に」
健人は鼻をこする。顔に痛みを感じていたのは、慣れていない愛想笑いという奴を浮かべていたからだと、その時はじめて気がついた。表情筋が引きつっていたのかもしれない。
「それより健人」
「ん」
「会長さんがコールドリーディングを使うと分かったなら、今度こそ勝てるかもしれない」
「別にじゃんけんで再戦を申し入れるつもりはないよ」
「そうなの」
晃仁はなぜか意外そうに目を見開いた。再戦を前提に晃仁は考えていたらしい。
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