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じゃん・けん・ぽん!!

第6章 再戦!

 まずい、まずい――と健人は頭を左右に激しく振る。
「会長!」
 教室の中へ消えていく裕子に、健人は声をかけた。
「なに、しつこいよ」
 裕子は首をひねって振り返ると、嫌悪感の満ちた視線を、肩越しに健人へ寄越した。
「ええと――」
 これ以上、ただお願いしますと言い続けても引き留めることはできないだろう。と言って、じっくり言葉を選んでいる時間もない。一時間目の授業がそろそろ始まるし、何より、裕子の気持ちがもうこちらにには微塵も興味を示していない。そこで咄嗟に――。

「じゃんけん――しませんか」

 と健人は言った。
「はあ?­」
 裕子はうんざりといった様子で返事をした。それでも、首だけしか健人の方へ向けていなかった裕子は、体ごと健人の方を向いた。そこに、若干ながら、何か掴めたものを健人は感じた。
 ゆらり、と裕子の体が揺れる。狐色の長い髪がふわりと靡いた。その髪を片手でぐしぐしと掻きながら、いかにも面倒くさいといった様子で、再び教室の入口へ戻ってくる。しなやかな体がくねくねと曲がる様子は、とても艶めかしかった。
 裕子は健人の前まで来て止まると、
「なんで、じゃんけんなわけ」
 と疑問を発した。
「なんでって――」
 健人は一瞬言い澱んだが、すぐに、裕子自身が言った言葉を思い出した。
「だって、ほら、じゃんけんなら公平じゃないですか」

 じゃんけんなら公平でしょ――。

 甘星堂でおにぎりを巡ってじゃんけんをした時に、裕子はそう言っていた。さすがに自分の言葉を否定するわけにはいかないだろう。
 裕子は一瞬だけ視線を反らせた。その、長い睫毛に縁取られた二重の眼を僅かに細め、そして同時に、ほとんど聞き取れないくらいの小さな音で、ち、と舌打ちをした。
「いいよ」
 深く息を吐いてから、裕子は低い声でそう言った。
 やはり健人の思った通りだった。裕子は自分の言葉を変えることに抵抗を感じたのだろう。やっと健人の話に乗ってくれた。

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