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じゃん・けん・ぽん!!

第6章 再戦!

「じゃあ、あらためて、俺は下駄箱の交換を生徒会の議題に載せることを希望します」
「わかってるよ。さっさとやるよ」
 裕子は拳を握りしめた。健人も拳を握る。
 とりあえず裕子を引き止めることには成功したが、ここでじゃんけんに勝たなければ引き止めた意味がない。しかも裕子は、コールドリーディングという技を使って相手の手を読む特殊能力を持っている可能性がある――というのが、友人である晃仁の見解だった。
 喫茶かじかでその話を聞いた時は面倒なことになると思ったが、その予想はどうやら的中したようだ。
 下駄箱を交換してほしい――という伊藤詩織の希望を、健人は会長に話してみると約束したのだが、その約束を、じゃんけんなどという運の要素の強い勝負で決めることになってしまった。そして相手は運だけではなく、こちらの手を読んでくるのだから、これはとてつもなく面倒くさいと思えて仕方がない。しかし――。
 健人には勝算があった。

 会長さんがコールドリーディングを使うと分かったなら、今度こそ勝てるかもしれない――。

 喫茶かじかで、晃仁はそう言っていた。そして、コールドリーディングを使う相手にこそ有効な、言わば返し技とも言うべき策を、健人に語ったのだった。
 その力を、今こそ見せつける時だ。
 まずは裕子の顔を見た。
 さっきまでは面倒くさそうな表情をしていたが、今は真剣な表情が浮いている。唇を噛んで、懸命に勝負に勝とうとする表情は、年上ながら健気で、とても――美しかった。
 その顔を見ることが、策の一段階目だった。
 裕子の、健気な、そして美しい顔立ちに、健人は自然と緊張して身が引き締まる。甘星堂で会った時と同じだ。体の筋肉がこわばり、背中が丸くなる。
「じゃん、けん――」
 健気で可憐な戦士が、そう言って、握った拳を後ろへ引いた。健人も同様に拳を引く。
「ぽん!」
 ふたりは同時に手を出した。結果は――。
 またしても健人の敗北だった。
 健人が出した手はチョキだった。一方、裕子の出した手はグーだ。完全な敗北だった。
「なぜ」
 言葉が出なかった。

 チョキを出せば勝てるよ――。

 喫茶かじかで、友人の晃仁はそう言っていた。理由はこうだ。

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