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じゃん・けん・ぽん!!

第6章 再戦!

「失礼しました」
 健人は、さっと横へ避ける。
 しかし巨漢は、それでも健人に絡みついてきた。
「邪魔なんだよ」
「す、すみません」
 健人は謝った。普段は、こんなに素直に人に謝ることはまずない。むしろ自分の体が大きいことを武器にして、逆に人に謝らせることはある。そんな健人から見ても、この上級生の体格と声と表情には、人を屈服させる何かがあった。
「すみませんじゃねえよ」
 と巨漢は、もう無いに近い間合いをさらに詰めてくる。これは殴られるかもしれない――と健人は思った。が、
「ちょっと学」
 裕子の可憐な声が割り込んできた。
 裕子の体は、健人よりも小さい。健人から見ても小さいのだから、巨漢から見たらもっと小さく見えるだろう。なのに、その体格差などものともしない様子で、裕子は巨漢の服の袖を引っ張って、そのぱっちりとした目でしっかりと巨漢の顔を見据えていた。
「なんだよ」
 と巨漢は言った。小虫を鬱陶しがっているかのような素振りだ。しかし裕子は、巨漢のそんな態度など気にしていないといった様子で、強い口調でさらに言った。
「あんたはさ、早く私のノートを返してよ」
「ノート?­」
 何のことか分からない――といった様子で巨漢は首を前へ突き出した。が、直後、何かに気づいたらしく、
「あ、ああ」
 と気まずそうな声を漏らした。
「数学のノート、貸したでしょ」
 裕子が言葉を畳み掛ける。
「あ、明日返す。明日には絶対に」
 巨漢は急に及び腰になり、頭の後ろを片手で擦りながら猫なで声を出した。
「私だって、ノートがなかったら困るんだからね。本当に明日には返してよね」
 裕子はそう言うと、ぷいとそっぽを向いた。そしてちょっとだけ健人に目をくれてから、背中を向けて今度こそ席へ戻ってしまった。
 巨漢も、その後に続くように席へ向かって歩いていく。
 ノートというのが何のことなのか、よくは分からない。でも、その関係のことで、あの巨漢は裕子に頭が上がらないらしい。そして、そのおかげで、悶着が避けられたのだろう。
 健人は緊張から解放されて思わず息を吐いた。
 始業の鐘が鳴ったから、健人もゆっくりとはしていられない。急いで自分の教室へ向かって駆けた。

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