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じゃん・けん・ぽん!!

第6章 再戦!

 思わず、顔の筋肉を動かす。すると、また裕子が笑った。
「さっきから、変な顔ばっかりしてる」
「変な顔って言わないでください」
「そういう意味じゃなくって、わざと顔を歪めてる様子がおかしいっていうことだよ」
 戦いを終えた後のせいか、裕子の見せる笑顔には余裕と慈愛が満ちているように健人には見えた。
 その笑みにつられて、健人も自然と頬が緩むのを感じた。
 健人は、ふと、裕子が違うものに思えた。今までは上級生であり、生徒会長だった女性が、ひとりの可愛い女の子に見えた。もちろんどちらも裕子の側面であることに違いはないのだが、ひとりの女の子という側面から裕子を見たのはこれが初めてだ。
 年上ではあるけれども、年齢の差は二歳だ。ほぼ同年齢と言っていい。体はほっそりと伸びやかで、日に焼けた茶色の肌からは活発な印象を受ける。どう考えても――。
 ――かわいい。
 そう思えてならなかった。
 そのかわいい女の子と、じゃんけんなどという他愛のない話題で笑みを交わし合っている。そう考えると、なんだかとても嬉しくて仕方がなかった。
 夢心地とはこのことか――と思う。
 しかし、その夢心地は長くは続かなかった。
 鐘が鳴ったのだ。
 始業の合図だ。授業を無視して教室の入口でこうして見つめ合っているというわけにはいかない。それでもこのまま和やかに別れたら、後まで余韻に浸ることもできただろう。しかし、健人が望む和やかな別れはできなかった。

「おい」

 不意に、後ろから声をかけられた。
 振り返ると、健人が見上げるほどの巨漢が立っていた。
 健人も背はかなり高いほうだと自覚しているが、背後の巨漢は健人よりもまだ大きい。背が高いばかりか、横にも大きかった。胸と肩に四つの岩をくっ付けたかのように筋肉が盛り上がっている。
 名前は知らないが、見覚えのある上級生だ。そして、この教室の生徒だということも知っている。
 健人は、自分が教室の入口に立っているせいで、出入りの邪魔になっていることに今になって気づいた。

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