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じゃん・けん・ぽん!!

第13章 会長のヒ・ミ・ツ

「そんなに難しい話ではありません。ノートをちょっと貸してください。実際にやってみます」
 学は、怪訝そうに眉間へ皺を刻みながらも、ノートを差し出してきた。それを晃仁は受け取る。
 晃仁は、ノートを机の上に置き、砂糖の入った小壺を手繰り寄せた。
 この店に置かれている砂糖は、珍しくスティックシュガーではない。砂糖は壺に入っていて、好きな分量を匙で掬って使うようになっている。しかも好都合なことに、砂糖の種類は白砂糖ではない。三温糖だ。粒が細かくて、色は焦げ茶色だ。
 晃仁は、その茶色い粉を大盛りでひと匙掬うと、問題のページ全体に、満遍なく振りかけた。
 そうしてから、ノートをほんの僅か傾げ、そして軽く振った。
 まぶした三温糖が、さらさらと机の上に落ちる。
 大方の砂糖が落ちると、文字が浮かびあがった。筆圧で出来た溝に引っかかった砂糖だけが残ったのだ。
 溝といっても、それほど深い凹みではない。紙を一枚越して届いた僅かな筆圧で出来た溝だ。砂糖の粒の直径より僅かに大きいか、もしくは僅かに小さいくらいの、本当に浅いものだ。だから、そこに書かれていることがすべてはっきりと見えるには至らなかった。
 それでも、いくつかの文字は浮かび上がった。その文字も、部分部分が欠けている。だから見えた部分から全体を予測するしかなかった。
 そうして把握できた文字から、四つの単語が書かれていることが分かった。
 その単語とは「父」「スイカ」「ごめん」「塩」の四つだ。あとはよく分からなかった。
 晃仁は机の上に散らばった砂糖をかき集めると、自分が飲んでいた珈琲に入れた。そのままにしておいてはさすがに迷惑だろう。
「何を書こうとしたんでしょうね」
 と晃仁は言った。晃仁よりも学の方が裕子については詳しいはずだ。晃仁には、把握した四つの言葉が何を意味しているのかわからない。でも学だったら、何か連想できるものがあるのではないかと期待しての質問だった。しかし学は、
「わからないな」
 と言って、体を反り返すような勢いで伸びをした。

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