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じゃん・けん・ぽん!!

第13章 会長のヒ・ミ・ツ

 晃仁としては、期待がはずれて若干がっかりしたが、それでも考えることはやめなかった。
 もう一度単語を思い返してみる。
 父。スイカ。ごめん。塩。
 事情は分からないが、「父」と「ごめん」という単語から、裕子と父の間には、何か確執のようなものがあったのではないか、と思われる。ただ、「スイカ」と「塩」についてはさっぱり分からない。スイカに塩をかけることはあるが、それが父娘の確執にどう関わってくるかは、まるで想像がつかなかった。
 でも、それは関係のないことだ。目的は、あくまでノートを見つけて祐子へ返却すること。そしてノートが見つかった今、目的は遂げたも同然だ。そこに何が書かれていたのかは、目的に関係ない。気にはなるが、知る必要はないし、おそらく知ってはいけないだろう。そう思う。
 だから気になりはしたものの、晃仁も学も席を立った。その矢先だった。
 裕子が現れた。

 ※

 なんとなく甘いものを口にしたくなった。
 とくに理由はない。あるとすれば、勉強のしすぎだろうか。それとも父との関係のことを考えすぎたためだろうか。とにかく、糖分を欲しているのは脳なのだろう。池田裕子は、下校途中の道を歩きながらそんなことを考えていた。
 道の両側には、文房具屋や板金工場や八百屋などがみっちりと並んでいる。それなのにひと気が少ないのは、きっと田舎だからなのだろう。そのなんとなく寂しい雰囲気を象徴するかのように、相変わらず蝉時雨が満ちている。真っ赤な夕焼けが、あまりにも鮮やかなので悲しかった。
 ――そういえば。
 ふと、祐子は思い出した。
 つい最近、この近くにケーキ屋ができたのだという。店の名は「くまごろーの家」だ。場所も聞いた。今歩いている道からちょっとそれたところに、その店はあるのだという。
 行ってみようと思った。そして裕子は、上品な甘みを期待しながら、近くの鍼灸院のそばの十字路を、右へ折れた。

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