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じゃん・けん・ぽん!!

第14章 第1回戦

 健人がいるのは、グラウンドの南の端だった。
 グラウンドは、まわりを桜の木で囲まれている。だからグラウンドの端は自然と木陰に隠れる。直射日光が当たって熱中症を起こしてはいけないという配慮のおかげか、その木陰に、健人のために椅子が用意されていた。それへ健人は腰掛けている。聞いた話によると、健人とは反対側――つまりグラウンドの北の端――には、空調設置派の代表選手が同じように控えているらしい。
 合図とともに、健人と相手は、グラウンドの真ん中にある演説台にあがり、多くの人に見えるようにじゃんけんをする、三回戦を争って、二勝取った側の勝利となる――そういう段取りだと聞いている。
 まだ合図はないが、時刻は昼休みもそろそろ終わろうかという頃合だ。そろそろ呼ばれるころだろう。なのに――。
 ――まだか、晃仁。
 頼みとしている友人が、なかなか姿を見せない。

 必ず勝てるように、相手がどんな手を出すのか探ってくる――。

 晃仁はそう息巻いて勢いよく敵陣に切り込んでいったが、まだ帰ってくる気配がない。
 どうしたというのだろう。さすがに晃仁とはいえ、決戦の切り札を探るのには苦労しているのだろうか。何にしろ、晃仁が戻ってこないとなると、健人は自分の知恵と運で勝利をもぎ取らなくてはならない。しかし、そんな自信は健人にはなかった。
 でも負けるわけにはいかない。期待に応えるために――だ。
 まだか、まだかと健人は晃仁の帰りを待っていたが、ついに晃仁は帰らなかった。
 生徒会の副会長らしき、あまり特徴のない男子生徒が演説台の上に立って、大声をあげた。

「それでは第一回戦を始めます! 両選手は台の上へ来てください!」

 拡声器を使っていないので、喉が裂けそうなほどの声だった。健人は結果の見えない勝負のゆくえに不安を覚えつつも、椅子から立ちあがった。

 ※

 健人も毒牙にかかっている。
 晃仁はそう判断した。
 そもそも、ことの発端は健人の行動にある。下駄箱の交換をしてほしい――その要望を、池田裕子に伝えたことがきっかけで、この騒動が起きたのだ。面倒くさいことを嫌う性質の健人が、いくら級長という立場になったとはいえ、なぜそんなことをしたのだろう。

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