妖魔の憂鬱
第5章 朝田 順子(あさだ じゅんこ)
黒羽は、朝田章市の眠る客室に居た。
優月が部屋から出た後、黒羽はこの部屋にやって来た。章市の記憶を長時間分操るには、流石に吸血する必要があるからだ。
吸血で出来た章市の首筋の穴を舐めて、黒羽が傷を癒していると…月明かりよりも一際明るく光る玉が、中庭から夜空に飛び上がるのが目に飛び込んできた。
黒羽は章市を放し、何事かと窓辺に立って光の進む方に目を凝らした。やがて黒羽の目でも追えなくなり、今度は中庭を覗きこんだ。
窓の外に広がる中庭には街灯がない。到底人間の目には何も見えないだろう。だが、黒羽には見えた。人型の何かが庭木にもたれ掛かって居る。
今日ここに居る筈の者とは、明らかに別の人型をしている。黒羽は窓を開けて、霧となって中庭を包み込んだ。敵とも見方とも言えない…見た事も無い姿の、嗅いだ事も無い匂いの生き物だ。迂闊にこちらの正体を証す訳にはいかない。
黒羽は得体の知れないその者の姿を、ハッキリと捉えられるまで近付き様子を伺った。
厚い胸板とスラリと伸びた手足。その姿はまるで森の奥で暮らすアスリートの様だ。適度な筋肉をナチュラルに付けて、バネの様に高く遠くに跳ねる事が容易に出来て、とても足が早いだろう姿だ。少しクセの有る髪は月明かりに照らされて艶々と輝いていた。其々が大きな顔のパーツは小さな顔に収まり、神話に出てくる「神様」の彫刻の様だった。
「きれぇ~いぃ…」
黒羽が思わず声をあげると、その者はムクリと体を起こした。
優月が部屋から出た後、黒羽はこの部屋にやって来た。章市の記憶を長時間分操るには、流石に吸血する必要があるからだ。
吸血で出来た章市の首筋の穴を舐めて、黒羽が傷を癒していると…月明かりよりも一際明るく光る玉が、中庭から夜空に飛び上がるのが目に飛び込んできた。
黒羽は章市を放し、何事かと窓辺に立って光の進む方に目を凝らした。やがて黒羽の目でも追えなくなり、今度は中庭を覗きこんだ。
窓の外に広がる中庭には街灯がない。到底人間の目には何も見えないだろう。だが、黒羽には見えた。人型の何かが庭木にもたれ掛かって居る。
今日ここに居る筈の者とは、明らかに別の人型をしている。黒羽は窓を開けて、霧となって中庭を包み込んだ。敵とも見方とも言えない…見た事も無い姿の、嗅いだ事も無い匂いの生き物だ。迂闊にこちらの正体を証す訳にはいかない。
黒羽は得体の知れないその者の姿を、ハッキリと捉えられるまで近付き様子を伺った。
厚い胸板とスラリと伸びた手足。その姿はまるで森の奥で暮らすアスリートの様だ。適度な筋肉をナチュラルに付けて、バネの様に高く遠くに跳ねる事が容易に出来て、とても足が早いだろう姿だ。少しクセの有る髪は月明かりに照らされて艶々と輝いていた。其々が大きな顔のパーツは小さな顔に収まり、神話に出てくる「神様」の彫刻の様だった。
「きれぇ~いぃ…」
黒羽が思わず声をあげると、その者はムクリと体を起こした。