テキストサイズ

妖魔の憂鬱

第5章 朝田 順子(あさだ じゅんこ)

立ち上がったその者は、驚くほど長身で布を1枚だけ身につけていた。その布からは、間違い無く優月の匂いがした。

「優月?…んな訳ないかぁ…んじゃ壱星?…まさかね…はっ!あっ!?」

優月の匂いの布で油断してしまった黒羽は、いつの間にか自分が姿を現していた事に気付き、慌てふためいた。布だけ奪って、優月は食べられちゃったのかも知れないと黒羽は考えたに違いない。

「優月は!?優月はどこだ!?」
「心配無用だ黒羽。優月はココに…社(やしろ)としてココに有る・・・」

社と名乗るこの者は、自分の胸に手を当てて、黒羽と同じ目線まで屈んだ。社が動くとフワリと良い匂いがした。その匂いは、男とも女とも言える不思議な匂いだ。社はゆっくりと黒羽に近づきその顎をつまみ上げて、キスをした。ゆっくりと柔らかく、暖かくて…深く甘いキス。

「信じて…黒羽」

どうしても人との接触は避けて通れないヴァンパイアの黒羽。どれだけ仲良くなったとしても、いつ密告されるか分からない世の中で、転々と住む場所を替える事を余儀無くされ今日まで生きてきた。誰も信じることが出来なかった黒羽に、いつだったか…優月が同じ事をして…言ったセリフだった。

黒羽は、壱星と優月が一体化に成功した事を理解した。

「優っ…ゃ…社、そのサイズじゃ…絶対に旦那の方と間違えて貰えないね…順子さんに」

社は地面を見下ろし、自分の目の高さとの距離を計ると黒羽に微笑みかけ、頷いた。

「でも、ヤるっきゃ無いんでしょ?」
「うん…その通りだ・・・」


ストーリーメニュー

TOPTOPへ