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テントの中でなんとやら

第1章 濡れた記念日

 一人記憶喪失ごっこで楽しみながら、枯れ葉と小石が混じる道をひたすら歩く。

 もう、小屋の姿が見えない。まあ、そんなもんでしょう。

 やがて、なにか冷たいものが、ポツリと頭のてっぺんに落ちてきた。

「やだ……セミのおしっこ?」

 落ちてきているのは、雨のようだ。

 小降りかと思うと、やがて、連射のごとく打ち付けてくる。

 通り雨ならいいが、やたらと強い。

 露出している肌に、バチバチと刺さってくる。

 私は小走りで先を急いだ。

 山頂はもうすぐ……と正面を見れば、小さな明かりが目に入ってきた。

 よく見ると、それは1つのドーム型のテントからだ。

 よかった……あそこに彼がいる……。

 いるのかな?

 急に怖くなった。

 普通、夜中に誰が所有してるかわからない山に、勝手にテント張ってる人なんているのかしら?

 いるとしたら、相当な変わり者か、私の彼氏くらいなものね。







 うん、間違いない。


 あそこにいるのは、彼氏に違いない。

 ビタビタと音をたて、大粒の雨が叩き付けてくる。

 なにしにきたんや、ワレとでも言っているかのようだ。

 私はテントの前に立った。

「ねぇ、私だけど、こうちゃん、いるの?」

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