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高校生だってムラムラする。

第4章 噴出


 からん、とグラスの中の氷が音を立てる。

「お待たせ」

 お礼を言って受け取った麦茶を一口飲む。緊張でいつの間にか早くなっていた呼吸が少し落ち着いた。


「どうだ、今年のは」

 黒崎は何気ない風を装って、しかし瞳には心配そうな色を浮かべて呟いた。
 私たちは、いつもこの話題ばかりだった。

「分からない」

 本当の、正直な感想である。何とかなる、と虚勢を張るのにも限界がきていた。追い詰められている自覚はあった。
 私は視線を少し下げた。彼の首元にはまだ乾ききっていない汗の雫が伝っている。襟足の髪の毛が肌に貼り付いていた。

「そうか」
「あんたはどう思う?」
「何とかなるだろ、とは言えないな。成瀬の前では」

 あまりにも無責任だから。
 
 その言葉を聞いた途端、胸の奥がぐっと詰まったようになった。目の縁が熱い。押し寄せる感情はぐちゃぐちゃで、正体が分からなくなった。
 安心、恐怖、不安、愛しさ。

 何とかなる、だなんて今まで腐るほど言われてきた。主に励ましの言葉として。もちろん言葉の主に悪意などない。それは分かっている。
 でも、許せなかった。それを「何とかしている」のは私なのに。勝手に、物事が解決の方へ向かう訳じゃないのに。どの面下げてそんなことを。
 ……そうやっていつまでも恨みがましい、自分のことはもっと嫌いだった。

 慌てて止めようとしたけれど、もう遅い。堪えきれなかった。つう、と私の頬に流れた涙を見て、黒崎は、かわいそうなくらいあからさまに動揺した。

「す、すまん……泣かせる気は……」
「ごめん、違うんだ、あんたのせいじゃない」

 途切れ途切れにそう告げながら、あとからあとから落ちてくる涙の粒を手のひらで拭う。
 彼は凛々しい眉を下げてこちらを見つめた。

「つらいよな。……ごめんな」

 そうやって、自分も傷ついたような声で言ったあと、黒崎は私をきつく抱き締めた。胸が苦しくなったのは、私を閉じ込める腕の力が強いせいであるはず、だ。
 私は彼の肩口に額を押し付けた。不器用な仕草でそっと頭を撫でる彼の手が、ひどく心地好い。

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