あたしの好きな人
第1章 会社の部下
岳人side
あいつ、店に戻って来なかった……。
「店長、これどうしましょう、お客様には出せないですかね?」
大学時代からの友人である、チーフの巽が冷蔵庫の食材を俺に見せた。
「あぁ?こんなのだせるかっ、捨ててしまえっ」
「えっ、でもまだ炙ったら使えると思うんで、賄いにでもしますかね?」
「じゃあ、そうすりゃいいだろ」
「……はいはい、何だよ岳人、咲良が帰って来ないからって、俺にあたるなよ」
図星さされて、ギロリと巽を睨みつける。
「悪い悪い、全く男の嫉妬は見苦しいね、気になるならさっさと自分のモノにすればいいのに」
「そんなんじゃ、意味ねぇんだ、あいつのほうから、俺を求めるようにならなきゃな」
「そういうもんかね」
ほっと溜め息をつく巽、他の従業員が来て、持ち場に戻る。
俺はイライラと溜め息をついた。
咲良は大学時代からモテていて、知り合った頃にはすでに色んな奴と付き合っていた。
最初は巽と付き合っていたんだ。
巽から話を聞いて、付き合ってるのに、何もさせてくれないと、相談されていた。
最初はどんな女の子なのか、興味があった。
見た目は確かに目の覚めるような美人、スタイル良くて、妙にそそる色気がある。
大学のキャンパス内で、巽と二人でいる所を見て、声を掛けようとした瞬間、
巽が咲良にキスをしたのを、目撃した時があった。
二人きりのベンチに座っている時で、巽は我慢できなかったんだろう、俺の存在に気付かずに、キス以上のことも迫り、
まずいとこを見たと、その場を離れようとした、その瞬間、
咲良が激しく拒否を示し、思い切り……殴っていた。
しかもグーで。
さすがの巽も黙ってなく、目の前で別れ話になり、あっさり二人はこの事をきっかけに別れた。
でも俺は見たんだ。
怒って巽が去った後、咲良が一人で泣いていたのを。
肩を震わせて、自分を抱きしめるようにして、声を殺して泣いていた。
俺はただそれを見てただけ。
巽と別れても、咲良は友人として接して、いつの間にか、咲良の友人と巽が付き合い、
4人で会う機会が増えた。