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え?元アイドルのお従兄ちゃんがわたしのクリフェラ係ですか!?

第13章 兄の想い、弟の想い

 夕謡はふらつく足取りで部屋へと戻った。先ほど耳にした詩菜の嬌声が耳から離れない。
 ベッドに倒れ込み、両手の甲で顔を覆う。目じりが熱い。まさか自分は、泣いているのだろうか。

『詩菜、大きくなったらね、クリフェラ係は夕謡お従兄《にい》ちゃんがいいな』
『僕をクリフェラ係にしてくれるの?』
『うん!』

 幼い詩菜の声がよみがえる。詩菜は忘れているようだったが、夕謡はそれを信じて詩菜のクリフェラ係になった。だが。

 燈多とは結婚の約束までしていたという。子供の口約束と笑い飛ばすことはできなかった。それをしたら、幼い詩菜の言葉を信じてクリフェラ係になった自らの想いまで否定することになる。

「詩、菜……」

 隠した両目から、熱い涙が頬を伝って落ちた。

 夕謡が詩菜を想うほどには、詩菜は夕謡を想ってはいない。それはわかっていた。
 抱くことができなかったのも、それをして嫌われるのが怖かったからだ。夕謡の熱情は激しい。それをそのままぶつけたら、詩菜はどうなるか――

 それでも今日、街で男たちに絡まれた詩菜を見て、焦りを覚えた。このままでは誰かに詩菜を奪われてしまう。
 だから、キスをした。その先までしようとした。それなのに。

 ――夕謡はその夜、一睡もすることができなかった。

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