テキストサイズ

秘密の楽園 / Produced by ぴの

第4章 秘密の楽園 3

☆m


「…か、かず?」

「まーくんが悪いんだよ…」


聞き間違いじゃなかった。


まさか、かずがまーくんって呼ぶなんて…


そんなの久しく聞いてなかったから、突然昔に戻ったかずに身体が上手く反応できない。


背中にしがみついたままぽつりと呟いたかずは、振り返るのを許さないというようにTシャツを引っ張っていて。


すぐ近くに感じる体温にじわりと汗が滲む。


頭までもショートしそうだ。


俺が悪いってなに…?


かずに何をしたって言うんだよ…


ざわざわと胸が騒ぎ出したと思ったら、一際ぎゅーっとTシャツを引っ張られ。


『……ぐすっ』


微かに鼻を啜る音が聞こえた気がした。


実際に泣いていたのかは分からない。


相変わらず夜空には輝く花火が上がっていたし。


咄嗟に振り返ったかずの顔は驚きはしていたが泣いた跡はなくて。


衝動的に振り返りはしたものの、身体も頭も動かないまま。


泣いてると思ったんだけどな…


なんだったんだろう…


かずの瞳はいつだって少しうるうるしていて今もそんな感じ。


いつも通りと言えばいつも通りだし、いつもより涙目だと言えば涙目。


どう捉えたらいい…?


かずもかずで再び押し黙ってしまい俺らの間に流れる沈黙。


たまにざわざわと周りの音やら笑い声が聞こえてきて。


「…帰ろっか」


考えもなしにそう口走っていた。


「はぁ?なんでだよ」って。


いつもみたいに抵抗されると思いきや、かずはコクリと頷いてきゅっと唇を噛み締めていて。


静かに踵を返してゆっくりと歩き始めた。


猫背の背中はいつも以上に小さくて、ふらふらと頼りなさげ。


こんな風に背中を見ることなんてなかった。


俺の場所はやっぱりこんなところじゃないだろ…


脚に力を入れて駆け出し、数歩先のかずの隣にトンと並ぶ。


チラッと見上げてきたかずと目が合った。


淋しそうな瞳…


そんな目するなよ。


俺はいつだってかずの側に居るから。


ポケットに突っ込もうとした手を掻っ攫い力を込めて握ってみた。


柔らかい手。


小っちゃい頃と変わんねーな。


公園で遊んだ後の帰り道みたいだ。


まだ見えないかずの心。


あの時みたいに本心を話してくれたらいいのに…



ストーリーメニュー

TOPTOPへ