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秘密の楽園 / Produced by ぴの

第5章 秘密の楽園 4

◆c


もくもくと上がる蒸気の中、天井を見つめてさっきのかずの態度を思い起こす。


花火会場の喧騒から抜け出したあと、握っていた手を離そうとしたかず。


でもそれを制するようにぎゅっと握り締めたら、すぐに俺に振り向いて。


チラッと視線だけ送った俺を見上げる瞳は、いつものようにうるうるしてた。


そして何も言わずにきゅっと握り返された手。


家までの道のり、一言も会話はなく。


昔のまんまのかずの小さな手をただただ包んで家路に着いた。


湯船に肩まで浸かり、両手でバシャッと顔を撫でる。


ふぅっと息を吐いてみても、胸に広がるざらつきは全然晴れてくれない。


…なんでかずのことになるとこんなにもモヤモヤするんだろう。


俺はかずの兄貴だから弟を大事にするのは当然のこと。


でもなんか…


なんか違うんだよな。


ガキの頃からずっと一緒だった俺とかず。


俺の傍を纏わりついて離れなくて。


『まーくん、まーくん』って。


そんなかずのこと俺が守ってやんなきゃって、その想いは今も変わってないはずなのに。


大野さんとかずの関係を想像しただけでカッとなってしまったり。


マネージャーとのことを誤解されたくなくて必死になったり。


つーか…


友達との約束をほったらかしてまで最優先する存在なんだ。


それってつまりさ…


俺にとってのかずは…


弟って以上に特別な存在だってこと…?


ふいに、さっきかずから呼ばれた『まーくん』が頭を過ぎって。


同時に、しがみつかれた背中の感触も鮮明に体が覚えてる。


ずっとかずの気持ちが分からないって思ってた。


なんで急に俺に対する態度が変わったのかって。


反抗期だって、そうゆう年頃なんだって割り切ろうと思ったこともあったよ。


でも心のどっかでまた昔みたいに戻れるって確信があったんだ、根拠なんてないけど。


でも…
もう戻れないかもしれない。


もしかして。


もしかしてかずのやつ…


俺のこと…


更に広がっていく得体の知れないざらつき。


それを打ち消したくて、ざぶんと勢い良く頭まで湯船に沈めた。

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