秘密の楽園 / Produced by ぴの
第7章 秘密の楽園 6 by mimi
なんてさ、こんなのただの言いがかり。
かずはちっとも悪くないけどあの部長さんだけは引っかかるんだもん。
…あ、そう言えば!
「ねぇ、かず」
「ん?」
拗ねてるって伝わってくる素っ気ない返事。
というより怒っているのかも。
煌めくビー玉みたいだった瞳は今やビームを放ちそうなくらいに鋭くなっていて。
でもこれだけは訊いておきたい。
「そういやあの役って…どうなった?」
部長さんがやけにかずにやらせたがっていた『兄に恋する弟』役。
結局かずが引き受けたのか、実はずっと気になっていた。
舞台に立つかずを見たい気持ちはあるけど、兄役があの部長さんだと思うと素直に応援できないというか。
それがずっと胸の奥で燻っていた。
せっかくだからと訊ねてみたけどかずは一層濃く眉間に皺を寄せ。
かと思ったら一瞬瞳を揺るがせて。
え、なに…?
そう思った時にはまた唇を尖らせていた。
「………いよ」
「え?」
「あんな役やんないよ…やるわけないじゃんっ」
泣きそうな声に戸惑ったけど明らかに様子が違うかずと慌てて向かい合った。
「何?どうしたの?」
「俺は裏方志望だって言ってんの。それに…」
「それに?」
「あの話『楽園』って付くくせに弟の想いは報われないんだよ?どこが楽園だよ。そんな縁起でもない役、百万円もらってもやんねーよ!」
バーカと捲し立てられてしまった。
その迫力に呆気に取られちゃうけど…
それってさ、何というか…
「かずって本当に俺のことが好きだね」
ぽろりと出てしまった率直な感想。
けどそういうことでしょ?
するとじわじわと顔を赤めたくせに妙に強気な態度で。
"そうだよ、悪い?"だって。
あ、やばい。
またきゅんってしちゃった。
「かず…」
そっと頬を撫でれば瞳が潤んでくる。
そこに期待の色が見えたから顔を傾け近づいた。
けれど。
「雅紀!和!トースト焼けたわよ!」
聞こえてきた母ちゃんの声。
タイミングばっちりなそれに耐えきれず思わず二人で吹き出した。
かずがぶち破ってくれた壁の向こう。
そこはまるでいつかの秘密基地みたいな場所。
今度こそきちんとかずを守りたい。
兄として、恋人として。
fin.