秘密の楽園 / Produced by ぴの
第8章 秘密の楽園 6 by cima
想いが通じ合ってからほぼ毎日、寝る前は俺の部屋に必ずやってくるかず。
だって二人っきりでゆっくりできる時間なんてそんなに多くはない。
俺たちは兄弟だから。
親の前ではいつも通りの俺らでいなきゃなんないし。
コンコンとノックの音がして、返事を待たずにカチャリと開いたドア。
「…まーくん」
そこから覗かせた顔があんまり可愛くてつい頬が緩んでしまう。
当たり前のように脚の間に入り込んできた華奢な体を、ふふっと笑って後ろから抱き込んだ。
何をするでもない、ただこうしてかずと触れ合っている時間が何にも代え難い幸せ。
風呂上がりの柔らかい髪をすうっと吸い込んでぎゅっと抱き締めれば。
くすくすと聞こえる笑い声が心地良くてそのままウトウトしてしまいそうなほど。
「ねぇまーくん…」
「んー…?」
まどろみかけた意識がかずの呼び掛けで引き戻されて。
返事をしながらまたぎゅっと抱え直す。
「あのセリフ言ってみてもいい…?」
「ん?セリフ…?」
「そう。役のセリフ」
くるっと向き直ったかずの瞳はどこかいたずらに輝く。
言葉の意味を問おうとその先を目で促すと。
「台本では叶えてやれなかったんだよ、俺の恋。なんかやってく内にさ、他人とは思えなくなっちゃって…」
そう溢す伏せた瞳に今日の舞台上のかずが重なった。
やっぱりかずがあの役をやったのは意味があったんだ。
きっと自分にしか出来ないんだって、どこか使命感みたいなものもあったんじゃないかな。
「うん…いいよ。叶えさせてあげようよ、その恋」
そう返せば目を上げた瞳がきらり揺らめいて。
向かい合うとちょこんと居住まいを正して俺を真っ直ぐに見つめた。
「兄ちゃん…俺…ずっと好きだった…」
「…うん、俺も。ずっとお前のこと好きだったよ」
ゆらゆらと揺れるかずの瞳が俺を捉えて離さない。
ふいにその瞳が細められて。
「大好き…誰よりも好き…世界一好きっ!」
「っ、ちょっ…かず!それセリフ?」
「んーん、これはオリジナル!」
ぎゅうっと抱き着かれる重みはこの上ない幸せの証。
この笑顔を絶えず傍で見ていたい。
この温もりを一番近くで感じていたい。
今までも、これからも。
兄として、恋人として。
fin.