
『untitled』
第5章 赤いシクラメン
松本が楽屋から出ていく。
腕を絡めて歩き出した二人の背中を見たくなくて
下を向いた。
でも、扉が閉まる瞬間、顔を上げたら
松本が、いや、潤が、こっちを見ていた。
その瞳は俺を捕らえて離さない、あの時の瞳と同じだった。
パタンと閉まったところで大きく息を吐き出した。
「はぁ…潤…」
潤を疑ってるわけじゃない。
むしろ、真面目で優しくて、俺にはもったいないくらいで。
だけど、俺は男で。
「ダメだ…疑っちゃ…」
荷物をまとめて楽屋を出た。
エレベーターで監督をはじめスタッフの皆さんも帰るところだったようで。
「お疲れさまです。このあと、松本をよろしくお願いします」
少し鬱陶しくて面倒なマネージャーと、思われるかもしれない。
でも、あえて一言口にした。
「このあと?何かあったけ?」
監督が周りを見てる。
みんな首を傾げている。
「いや、皆さんと飲みに行くことになったって…話して…」
「今日は、これから音録りしなきゃならないからないですよ」
やっぱり、嘘だったんだ。
エレベーターで聞いた話は彼女が言ったものとはまるで違うもので。
楽屋に忘れ物したふりをして引き返した。
彼女のマネージャーがまだ残っていたのを見たから、彼女の居場所を訪ねるために。
「あの…いつもお世話になっております。櫻井です。今日って…」
彼女のマネージャーは驚きながらも言った。
「多少、強引な性格ですが、仕事のためです」
そして、居場所を教えてくれた。
こういうとき、マネージャーで良かったと思う。
居場所を聞き出す理由なんていくらでもつくることができる。
車に乗りフロントミラーを見る。
いつもは写るはずの潤の姿が今日はない。
眼鏡を外して、ネクタイを外した。
時計を確認する。
「勤務時間は終わりだ」
そう、もうマネージャーじゃない。
腕を絡めて歩き出した二人の背中を見たくなくて
下を向いた。
でも、扉が閉まる瞬間、顔を上げたら
松本が、いや、潤が、こっちを見ていた。
その瞳は俺を捕らえて離さない、あの時の瞳と同じだった。
パタンと閉まったところで大きく息を吐き出した。
「はぁ…潤…」
潤を疑ってるわけじゃない。
むしろ、真面目で優しくて、俺にはもったいないくらいで。
だけど、俺は男で。
「ダメだ…疑っちゃ…」
荷物をまとめて楽屋を出た。
エレベーターで監督をはじめスタッフの皆さんも帰るところだったようで。
「お疲れさまです。このあと、松本をよろしくお願いします」
少し鬱陶しくて面倒なマネージャーと、思われるかもしれない。
でも、あえて一言口にした。
「このあと?何かあったけ?」
監督が周りを見てる。
みんな首を傾げている。
「いや、皆さんと飲みに行くことになったって…話して…」
「今日は、これから音録りしなきゃならないからないですよ」
やっぱり、嘘だったんだ。
エレベーターで聞いた話は彼女が言ったものとはまるで違うもので。
楽屋に忘れ物したふりをして引き返した。
彼女のマネージャーがまだ残っていたのを見たから、彼女の居場所を訪ねるために。
「あの…いつもお世話になっております。櫻井です。今日って…」
彼女のマネージャーは驚きながらも言った。
「多少、強引な性格ですが、仕事のためです」
そして、居場所を教えてくれた。
こういうとき、マネージャーで良かったと思う。
居場所を聞き出す理由なんていくらでもつくることができる。
車に乗りフロントミラーを見る。
いつもは写るはずの潤の姿が今日はない。
眼鏡を外して、ネクタイを外した。
時計を確認する。
「勤務時間は終わりだ」
そう、もうマネージャーじゃない。
