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子供じゃない…上司に大人にされ溺愛されてます

第8章 本当に好きな人



川合伊予side



男の人が泣くなんて、はじめて見てしまった。

しかも鬼の営業部長、麻生部長。

仕事の鬼、仕事では完璧主義で、細かくイチイチ言われるし、

注意されたくないから、気が抜けなくて、でも間違ったことは言わない。

言うとおりにして良かったと、何度も助けられて、尊敬していた。


今、私の目の前にいる麻生部長は、幼馴染みに振られて、ただ泣いてる男の人。

水族館は暗いから、きっと私に気付かれてるとは、思ってないんだろう。


水槽の中の魚に視線を向けて、私に背中を向けて、

震えていると、気付いた。


水槽のガラスに写る、麻生部長の綺麗な顔、

その瞳に光るモノが見えて、



胸がきゅっと、掴まれたような感覚。



その広い背中を抱きしめたい衝動に刈られる。


……私がなんとかしてあげたい、抱きしめて、慰めて、頭を撫でてあげたい。

……変なの、営業部長なのに。


脳裏によぎるのは、お見合いした人。

見た目は普通、仕事は大手、次男だし申し分ない経歴の人、

……好きな人と結婚しても、結婚したらただの家族になるだけなんだから、

優しくて浮気しない、真面目な人が一番。

そう言っていたお母さんの言葉を受け入れて、決めた人。

何度かデートをして、穏やかな気持ちになれた。

好きな人ではないけれど。


……それでいいんだと、家族になれば、そんなこと必要なくなる。

今まで好きな人なんていなかった、誰かと付き合っていても、

体を重ねても、


……こんなモノかと思っていた。


ましては男の人が、……可愛いなんて。


……どうかしている。



だけど、この人を放っておけない。



私は麻生部長の肩にぽんと手を置いて、なるべく明るい笑顔を向けた。

「麻生部長、飲みに行きましょうよ?」

驚いたように瞬きして、麻生部長が振り返った。

瞳が少し濡れていて、ぞくりとするほど綺麗、不思議な色の瞳。

私が笑顔にしてあげたい、

そんな風に思うなんて、自分でも驚いた。


「…お前が笑うとこ、初めて見たよ、川合って美人だったんだな?」

「なにを言ってんですか、おだててもおごりませんから」

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