テキストサイズ

『ま゜』

第1章 に゛

※この話は、「家政婦の水戸」では、語られなかった未知なるストーリーである。


 時は夏の暑さも、ようやく落ち着きはじめた9月下旬の日曜日の午後3時18分47秒。

「水戸さぁーん」

 水戸さんの雇い主、山野家の次女で、中学生の紗知が、キッチンに立つ水戸さんを覗き見て声をかけた。

『け'ま゜』

 艶のあるロングヘアー、ピンクのサマーセーターに膝までのきつね色のスカート。だが、振り向けば瞳孔は開き、焦点は合っておらず、皮膚はファンデーションで固められ、首筋は赤紫に変色している。

「ねえ、水戸さん、なんかおやつあるかな?」 

 水戸さんは、テーブルの上を示した。

『げ"ろ-の゛ざ゜ん^がい^(マフィンをお焼きいたしました。お口にあうかどうか……)』

「うわぁーっ! 美味しそう! こんなのも作れるんだ」

 紗知は人類で唯一、水戸さんの言葉が理解出来る力をもつ。

 だが、普段、水戸さんが会話をするときは……、

「水戸さん」

 山野家の主で、紗知の父親である、山野羊(やまのよう)だ。

「明日から、3日ほど出張なんだよ。部屋を用意するから、泊まりでなんとかならないか?」

 言葉は理解出来る水戸さんは、紗知以外の人に、自分から答える時、携帯電話をだす。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ