
触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
………
カン、カン。
金属を打ち付ける音。
グラグラする。
目を開けることすらままならなくて、
瞼を閉じているしかない。
「七瀬夕紀…かぁ」
あれ、僕は何で…
「立花さん、やっぱり俺、
こいつの名前聞いたことあるような
気がするんですよねぇ」
僕は背負われていた。
この声は、佐藤、だっけ。
警察官の制服を着ていた。
「当たり前じゃあ!手前は何の目的もなくあんな人混みだらけのじゃかあしいとこさ行った思っとったんか」
立花…って誰だっけ。
瞼の隙間から見えた。
青いシャツに、灰色のロングコート、
サングラス、
青い光の入った耳を隠す長めの髪。
カン、カン、
という音は、金属の床の上を歩く佐藤と立花の足音だと分かった。
僕は佐藤に背負われて、
どこかへ運ばれていく。
こいつらは一体、何者なんだ。
ここはどこだ。
「すいません、記憶力がなくて。
でも、立花さんがジョー、
って言ったから、初対面かと思いました」
ジョー、とは、上、のことか
車の窓の隙間から覗くサングラスの奥の目が、僕を品定めしていた。
「二度目の選定さぁ。
小っさい頃からお嬢に目ぇつけられて、
よく名前聞いたもんよ。
あん頃から、こいつぁ上の上、
最高ランクだぁね」
立花とかいうサングラスの男、
僕のことを知っているらしい。
しかし、そんな偏屈な喋り方した奴に会った覚えはない。
「なーんか、いけすかないガキですね。
あんな名門校に通って、将来は安泰で、
オマケにこの見た目で。
きっと、何の苦労もないんでしょうねぇ。
俺の人生を味わってほしいですよ」
佐藤の言葉を聞いて、ふん、と立花が笑った。
…かと思うと、大声で叫んだ。
「あなぁかまぁ!」
「いっっったぁあ!」
立花が佐藤の脛を蹴って、僕まで落とされそうになる。
「何するんですか!」
立花は佐藤に侮蔑するような目を向けた。
「知った口聞くんでないよ」
立花のひょうきんな声が、
いつのまにか律された、
大人しい声に変わっていた。
「その子ぉは、なぁんも知らんで生きてきたのさ」
…立花は、何を知ってるって言うんだ
お前、誰だよ
「家族も、故郷も、運命も」
