
触って、七瀬。ー青い冬ー
第12章 赤糸の行方
伊織も少なからず気づいていた筈だ。
麗子さんがくれた全てのものが、
俺の人生を狂わせたと。
「そんなこと、今はいいんだ。
…夕紀を探しに行く」
俺がそう言うと、
伊織は聞こえないため息をついて、
俺の胸ぐらを掴んだ。
「あんたに七瀬を預けてられない。
俺が探す」
伊織はそう言って、俺をベッドの上に放り投げた。
こんなことを言う資格はないとわかっていた。
でも、言わずにはいられなかった。
「夕紀は俺を選んだんだよ、伊織」
部屋を出ようとする伊織に言った。
「…」
伊織が立ち止まった。
「あんたに七瀬といる資格はない」
「愛してるって言われたよ」
伊織は背中を見せたまま、何も言わない。
「伊織こそ、資格、あるの?」
《みんな悲しむよ、
伊織が奪っちゃったら》
…そんなことはわかってる。
でも、翔太の言葉には納得できなかった。
誰かのために自分が我慢するのは、
そんなに素晴らしいことか?
自分の生きたいように生きて、
欲しいものは欲しいと言って、
そのために必死に手を伸ばすのは、
悪いことか?
あれから、何度目の冬だろう。
街に我が物顔で立っている、
大きなクリスマスツリーが大嫌いだった。
あの星を見る度に、翔太の影が見えた。
笑顔で俺の手を引く翔太が。
そして、幸せに包まれた赤と緑の街の中で、中学生の翔太は平気で俺に言い放った。
お前のためなら、
自分の人生なんてくれてやると。
…ふざけんな。
伊織は手のひらを見つめていた。
その翔太が、麗子さんのおかげでようやく俺の呪縛から解かれたと思ったのに。
翔太は、自分のために生きるということを知らなかった。
そして、今、そんな風になってしまった原因である俺に、復讐しようとしている。
よりにもよって、七瀬夕紀を使って。
「…あいつの気持ちなんか…
考えてる暇ねぇんだよ」
…俺は、あいつに、七瀬夕紀に会うために
生きてきた。
俺が生きているのは、
七瀬夕紀に会うためだ。
会いたいからだ
今も、昔も、変わらず。
伊織は部屋を飛び出した。
翔太は、取り残された部屋で笑った。
「伊織、お前って本当に馬鹿だ」
そんな風に、馬鹿になりたい。
