
触って、七瀬。ー青い冬ー
第19章 夢色の雨
だけど、
美しくい続けようとすることはとても苦しい
美しいものだけを見ていようとするのはとても辛い
希望が常に道の先を照らしているのはとても恐ろしい
だから
黒い羽は醜くても心地よかった
もう、高い場所を一人で飛び続けなくたって
いい
そんな苦しみを自ら味わってまで
美しくあろうとする必要は
ない
人生を美しくしようともがく必要は
ない
まるでその人生が生ゴミのようでも
捨てられる程の醜いものでも
それでいいじゃないか
白い羽は、俺には背負いきれない
黒い羽を背負った俺の人生に
希望はない
光はない
ただ、
欲
欲
欲
欲
欲しい、という欲だけ
もっと
もう何もない
何もない
それならばと
もし何もないなら
もし白い羽がもうないなら
希望がもうないなら
いい、いらない
構わない
もう希望を探し続けるのは諦めた
人生を諦めた
だから
欲しい
俺が望むそのほかのもの
俺がかつて要らないと言って
脇目もふらなかった全てのもの
金
人が羨む全てのもの
俺の人生を決して白くはできない
無意味な財産を
無意味なもの全て
俺に
白い羽で上を目指し続けている
どこかの誰かが落としていった
こんなものは要らないと彼らが捨てたもの
その全て
俺が残らずかき集め
拾い集め
食ってやる
食い尽くして
鳴いてやる
昼から夜に変わるころ
光が消えていくその夕時に
夕月に
鳴いてやる
そして人々は昼の終わりを知り
夜の始まりを知る
夜に変わった時
夜に溶け込んで歩き廻る
飛びもせず
羽を広げもせず
食ってやる
要らないもの
俺のこの汚れた人生
いっそもっと汚してしまおう
光はない
希望はない
ただ、欲だけがある
欲
欲
動悸がする程の
欲
