
触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
「ただし、条件がある」
「何…だよ…」
鞄の中から取り出してみせる
七瀬の瞳孔がぱっと開く
「飴ちゃん一個追加」
「はっ…?」
七瀬が一時困惑する
「そんなん楽勝じゃ…」
こんなん罰ゲームにもならない
むしろご褒美じゃないか、と思っているらしい
だがそこが落とし穴だ
俺もこの純粋すぎる少年も笑えるほど救いがない
「なあ気づいてる?」
言いつつ飴玉の袋をパリ、と破いた
「手、震えてる」
七瀬が震える右手を左手で抑えた
悪事を母親に見つかって、逃げ場もなくただ
羞恥と自己嫌悪に悩まされている子供の表情で
「…厨二か」
馬鹿にするように笑ったのは自分の気を紛らわすためだ
「…てめえの、せいだ」
七瀬が言ったのは、その手の震えのことだけではないんだろう
その目が、この世の全ての光を詰め込んだような
透き通った灰色をしていた
それが、憎しみに歪んで恐ろしく強い光を反射させて俺の汚れた水晶体に打ち込まれる
この美しさが俺の側にいつまでもあるならば
憎まれても構わないし
なんなら殺されても構わない
それでも七瀬が幸せに生きるには
俺が七瀬の世界から消えることが一番なのであって
七瀬が俺を殺すことになったら
七瀬がその後生きづらい
今でさえそうだけど
「ごめん、全部俺のせい」
全部全部、背負えてしまえたらどれだけ幸せかな
君が募らせてきた苦しみや憎しみを
俺にぶつけて全て浄化させてよ
そうしたらもう、過去の呪いに息を詰まらせないで生きていけるだろう
「そんな、簡単に、謝んな」
わかってる
君の人生に大きな傷をつけたこと
その手首や首に触れてしまったこと
関わらなくていい事件に巻き込んだこと
俺という不純物が君の体内に浸食して
未だに寄生していること
もう二度と取り返せない消えてしまった人のこと
二度と離れないと誓っておきながら
離れることを勝手に決めたこと
離れようとして離れられなかったこと
こんな風にぐちゃぐちゃな気持ちで
整理もしないまま君に欲望をぶつけていること
ああなんて下劣なゴミ屑だろうか
「もう二度と謝らないよ」
俺の笑顔はいつでも完璧で
誰もこれが作り笑いだとは思わない
但し君には絶対にバレてしまうから
俺はもう君の前では笑えない
「っ!」
飴玉を七瀬の口に突っ込んだ
