
触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
あれも全部嘘だったんですよね?
そもそも平賀さんにテレビ局とのコネクションなんて全く無いんですよね?違いますか?
聞きましたよ。先月まで蛍光に載ってた新人がやめたって、あれも平賀さんのセクハラが原因なんでしょう?」
「な、何言ってんだ!そんなのただの噂に決まってるだろ!なあ紘、俺のことが信じられないのか?もう2年も一緒にやってきたじゃないか」
平賀さんは紘の腕を掴んだ
僕の腕を捻り上げたその腕を、
紘は簡単に振り払ってしまった
「キモいんだよおっさん。こっちはあんたが使えると思って媚び売ってただけなのに何調子乗ってんだよ?俺はあんたに興味があって近寄ってたわけじゃない。モデルを踏み台にしてる俺が言えることじゃないかもしれないけど」
紘は平賀さんの胸ぐらを掴んだ
「これ以上モデルの芽を摘んでくれるなよ」
平賀さんは顔面蒼白で頷いた
「はっ…はひ…」
「今回のことは俺から上に伝えといてやるから、
あんたはそいつのコレクションでも眺めながら一人で遊んでな」
平賀さんは投げ出されるやいなや、足をもつれさせながら逃げて行った
「…はーあ、暇な男だなーあいつ」
紘は手を払って歩き出した
「あ、あの」
出そうと思った声は掠れていて喉はカラカラに乾き切っていた
紘は長い足を止めて、振り向いた
大きい目がまた、僕をぎろりと睨み付けている
「…自分の身が自分で守れないなら
こんな仕事辞めた方が良い」
それは忠告というより警告、勧告である
辞めた方がいい
それが答えだろう
ただ、僕には辞めるという選択肢はない
もし辞めるとすれば、あの動画の流出は確実だ
でも、辞めたくても辞められないんだなんて言ったら本気でやっている彼らのようなモデルには失礼にあたるのだろう
それこそ、辞めろと責められてもおかしくはない
「そう、ですね。すみません。今後は気をつけます。助けて頂いてありがとうございました」
「別に、助けたつもりないし
もう関わらないでくれれば問題ないから」
紘は金色に染めたサラサラの髪の毛を揺らして歩いて行った
「…はあ…」
ああもう、これ以上傷をえぐらないでくれ…
「終わりましたか」
ビルを出て駐車場へ行くと、車の前に桃屋が立っていた
「これも計画通り、ですか」
「何のことです?さあ、早く」
押し込まれるように車に乗る
