
触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
そこまでして自分の意思を押し通す理由も見つからなかった
七瀬の平穏、身の安全を脅かしてまで
…と思ったらぽっと出の執事が簡単に七瀬を手に入れたようで、さらに薬を使って餌付けまでしてくれた
挙げ句の果てには予約制のリベンジポルノ、
脅迫ときた
世間の目を一番気にする七瀬は
胃をどれほど痛めつけられる思いをしたか
それでもこの表紙に立つ七瀬は、以前とは少し違う人間に見えた
少しだけ、反抗心を見せるような目つきだ
だけど俺に対してはもっと強い反抗心を持って
時には手や足を出して反撃してくるようになった
【死ね】
今まで七瀬が自分自身に言ってきた言葉だった
あの時、俺の目の前で手首を縦に切ろうとしていた
俺がいなくなって孤独に襲われ死のうとして
自分の存在価値を知らなかった
だけど今は、世間に名前を知られるようになって
カメラの前でも堂々としている
桃屋が強引にやらせたことだとしても
七瀬は少し強くなった
今まで俺に依存しかけていた七瀬とは
もう違うし、一人じゃない
俺が支えている必要もない
「よかったんだ、結果としては」
「そうかよ、そりゃあ良かったな」
ページをめくると、七瀬がこちらを見上げていた
まるで絵に描いたような美しさで
それは多分、朝日や星空と同じ類の奇跡的瞬間
美しい風景よりもっと、俺の深層に触れてくる
そんな奇跡的美の化身が毎日隣に座っていた
どれだけ嫌われようと、彼が隣にいるだけで
毎日が輝いてしまうのは彼が美しいからではない
なぜならあの存在は月であり
否応なく闇を包むからだ
どんなに暗い夜も空の向こうで待っている
きっと夜ごと俺も包むからだ
いつかの夜、見た景色はまだ根強く俺を掴んでいる
こうして俺を見上げていた
…笑った顔じゃなく、
泣いてる顔ばかり浮かんでくる
「…ああ無理だ」
「え?まだ1ページ目じゃねえか」
「無理無理、こんなん見てたら頭おかしくなる」
高梨は耳を赤くした
ばさ、と雑誌が三刀屋に投げられる
「はっはあああーーん?」
「…なんだよ」
「普通は《好きとか嫉妬とかくだらない》みたいなこと言ってる人は平気で見られると思うんですがねえー!」
三刀屋は水を得た魚のように活気づき、
ページをめくり高梨に見せる
「ほらほら、見ろよ!ほらほら!」
