
触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
だから俺たちは、その屋上の扉の前の薄暗い階段に座っている
「いらねえよ」
投げつけられたものを扉に投げる
「えー?今月七瀬が表紙なーのーにー?」
「…」
高梨は黙って立ち上がり拾い上げた
「なーんだよやっぱ見るんじゃん」
あまりに大人しく拾い上げたのでおかしくて笑ってしまった
「っせえな、別に…」
表紙には七瀬夕紀、絶世の美少年が写っている
緩い白シャツ一枚に黒いホットパンツ
随分ラフで風呂上がりみたいだ
隣にもう一人、線の細くて足の長いモデルがいる
目が大きいが、癖のありそうな黒目の小さい目だ
こちらを観察して分析するような
大人しくて攻撃的な目だった
二人とも、我が強いように見えて一歩引いている
容易には理解しがたい雰囲気だ
「なんかさ、その二人似てるよなー」
三刀屋は使いもしないバスケットボールを持ち出して来て、頭上に投げて遊んでいた
「そうか?」
「七瀬の隣にいるの紘って言うらしいんだけど、
なんつうの?雰囲気がさあ」
二人を見比べるが、身長にしても目つきにしても
表情にしても特に似たようには思わない
「気のせいだろ、似ても似つかない」
高梨は鼻で笑った
「嫉妬ですかー?嫉妬しちゃったりなんかしちゃってたりって感じですかぁあああ?」
三刀屋が騒ぐので階段の下まで声が響き渡る
「そういうの飽きたんだ俺は」
「そういうのって?」
「好きとか嫉妬とか、くだらないだろ
どうせ何考えてたってもう嫌われた」
湿った空気と淀んだ空
今日、七瀬は学校に来なかった
「っつーか嫌われるように頑張ったんだよなー
にしてもやり過ぎだったとは思うけど?」
「最初は七瀬のためだとか言ってた。
でも実際は、望みを無くせば俺自身が楽になると思ったからだ」
七瀬が立花に好きなように使われるよりはと思って、交換条件で俺が七瀬の代わりとして働き、七瀬は
立花がお嬢と呼ぶ白鷺サキの婚約相手になることで七瀬は守られる
そんな複雑な立場になってしまったら、
これ以上事を乱すこともできない
だったらこの一時的に収まった戦場を
そのまま新しい生活の場にしてしまえばいい
七瀬が白鷺サキの夫として鳥籠の中に入れられても
それこそが唯一七瀬が安全でいられる道だった
二人の婚約をぶち壊そうと試みたこともあったが
