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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫


高梨はバスケットボールを階段下へ投げつけた

階段に当たって跳ね返り、踊り場のガラスに目掛けて飛んでいってガラスを大仰に割った

三刀屋は青い顔で散らかった窓ガラスの破片と入り込んでくる雨風に制服の裾を濡らした

「あああー!ガラスがー!」

「っるせえ!教えろよ!お前は俺が思い切って振られてこいとか言うけど?じゃあ七瀬がいつも誰かに襲われたり略奪されそうになって俺がそいつらと戦わなきゃならんのは俺が何か悪いことしたからなのかって聞いてんだよ!」

「そんなん七瀬だって同じだろうが
七瀬と仲良いわけじゃねえから知らんけどよお!
お前だってそこそこ色んな奴に言い寄られて遊びまくってたんだろうよお!今もか、おい今もなのか!?まあ別に羨ましくはねえけど!?お前がそうやってフラフラ遊んで男も女も食い散らかしてっから七瀬も不安になってお前から離れていくんじゃねえの?
お前が七瀬を馬鹿みたいに?たまにこいつ気が狂ってんじゃないかって心配になるくらいに?大大大好きなのは俺ですら十分わかるけど?
七瀬は分かんねえんだろうなあー!!お前が好きな奴相手だとめっちゃくちゃ嘘が上手くなるのは知ってるからあああ!七瀬が可哀想だわあ!なんなん?モテやがってクッソなんなんだよお前は!その顔マジムカつくんだよこのクソ野郎!七瀬が好きなら一図にアタックし続けろよ!
邪魔が入るのは気の毒だけどさあ、
お前が好きなのは!それくらい希少価値がある人間だってことだろ!?もしお前が他の敵蹴散らすくらいのこともできないでそれで諦めるんだったら
お前の気持ちはその程度のちーーーっこいもんだったってことだろうよ!顔が良いだけで中身はどーーしようもないんだなあああ!顔が!良いだけでッ!顔がっっ!!あー!ムカつくわああーー!」

「こらあああっ!誰だーっ!窓ガラス割った奴はー!」

「ああっ!先生すみませんっ!」

「三刀屋ああああー!降りてきなさーい!」

「今いきまあああーす!」

三刀屋は高梨を突き飛ばして駆け下りて行った。
その時ついでに、べーっと舌を出して。

高梨はその場に座り、盛大に割られた窓ガラスの向こうの雨雲を見上げた。

「…わかったよ」

足を踏み出すと、床のガラス片が音をたてた

雪みたいだ、と思ったら

膝をついて雪の花びらにキスをする七瀬が
目の前で目を閉じて笑っていた


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