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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫


そんな暗いこと言ってたら見捨てられる
笑われる
考えすぎだって、落ち込んでるだけだって
悲観しすぎ、ドラマチックに考えすぎ
馬鹿の一つ覚えみたいに事あるごとに
死にたいなんて思う
こんな人間うっとうしい
だったら死ねばって、その通りです
でも死ぬのが一番辛いんです
もし誰も僕を見つけてくれなかったら
僕なんのために死んだんでしょう

見つけられないなら、引きこもって泣いて
死ぬまで外に出ないのと同じ
だったらその方が楽じゃないですか
苦しくても、誰かが見つけてくれるかもしれない、
まだどこかに居場所があるかもしれないって
ささやかな希望に縋り付いてるほうが
自分に見切りをつけて自分を殺すのは
もっと悔しくて可哀想で虚しいです
自分が大好きだからなんでしょうね

だから誰にも構ってもらえないのが苦しいんです
構って貰うのも申し訳ないのに
構ってもらえないと存在価値を否定されてるみたい


誰かに死ぬほど愛されてみたかった
依存されてみたかった
僕は依存しないと生きられない
誰かの下にいないと落ち着かない
飼われていないと生きられない

死んでくださいって誰かに頼まれたら
もしかしたら死ねるかも知れない
きっとそうです
僕が生きてると幸せにならないから
どうか死んでくださいって言われたら
潔く死ねるかもしれない

そうやって死ぬなら僕が死ぬ事で幸せになる人がいるなら僕が生まれてきた意味もあったと思えます
この人を幸せにするために死ぬんだと納得できます

僕は人に従うのが得意だから
人に嫌われないように生きるのが得意だから
命令には背けないから
生き方も死に方も誰かが決めてくれれば
多分もっと幸せだった」

紘は笑った

「わかった。俺もそう思うよ。
ずっと人と関わるのが嫌いだったんだ
人は面倒だから、生きるのも飽きたよ
俺も一緒に死んであげる
死んでくれたら幸せ
俺と一緒に死のう」


七瀬夕紀を背中に担いだ
服はシャツ一枚、部屋に置いてあったパジャマのズボンを履かせて
エレベーターに乗って最上階まで上がって
非常階段に出て踊り場に立った

風が冷たくて車が行き来している道路は細く遠くにあった

自分も死ぬほど酒を飲んでくればよかったと思った


「こんな夜中でも車多いね」

紘が言うと、七瀬夕紀は黙って下を見た

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