
触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
「ちょっと待って、服着なよ」
本当にシャツを羽織っただけの格好で出て行こうとするので焦って引き留めた
「服…?」
手を掴んだら、七瀬夕紀は電池が切れたように崩れ落ちる
「…だから無茶だって言ったのに」
結局、七瀬夕紀を再びベッドに運び込んだ
「僕の友達…学校やめるって」
寝かせて布団をかけた時、目を閉じたまま言った
「僕の隣の席なのに、なんの相談もなかった…」
まあそんな仲でもないかもしれないけど、と言って
それに改めて傷ついて笑っている
「今日会いに行ったのがその友達です」
「そう」
「卒業まであと少しなのに…
何考えてんのか…わからない」
七瀬夕紀は目を赤くしていた
「これで、もう会うこともないかも…
少なくとも七瀬夕紀としては」
七瀬夕紀は恐怖に震えていた
何を恐れているのだろう
会えないことか不安か
自分の弱さか運命か
「復讐とか…馬鹿でした。こんなのなんの意味もなかった。やり返して傷つけてやろうと思ってたけど、そんな事じゃ満足もできないし喜べないし
壊れてるものをもっと粉々にするだけで
もっと虚しくて苦しくなるだけでした
僕は好きだったから
どんなに無意味な気持ちでも馬鹿らしくても
やっぱり顔が見たいって思っちゃうから
苦しんでも苦しんでも学習できない
やめておけって何度も何度も言い聞かせようとして
拗れて憎むようになって
だけどそれって僕の都合で
あっちからしたらどうでもいい存在にどう思われてようが関係ないだろうし
だからこそ気軽に話しかけてきたりして
…余計に苦しくて
思い出すとピアノも弾けないくらい手が震えて
何か薬を飲まないと落ち着かなくて
手首に刃を当てると思い出すんです
一度、あの人は僕が死のうとしたのを止めてくれた
絶対に離れないって…抱きしめてくれた
人の気持ちは変わるから
絶対なんて約束も自然となくなっていって
僕だけがその約束を覚えていて
また助けてもらえるのを待ってる
絶対、って言葉を待ってる
誰も僕を死ぬまで見ていてはくれない
誰も一緒に苦しんではくれない
こんな僕に付き合うのは疲れるから
生きるのに向いてなかったんです
生きるのが難しい
それでも死なないのは僕のせい
死んでもいいと言われても苦しい
死ぬなと言われても苦しい
絶望しても明日があって今日も終わる
