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触って、七瀬。ー青い冬ー

第23章 舞姫の玉章



「ごめん」

謝ったのは僕

「何が、どうしたんだよ…」

慌て、困ったのは高梨

飛行機の中、他に乗客はいなかった

高梨は迷った挙句、僕にハンカチを差し出した

真っ黒だった

それを見ると、余計に
苦しくなった

「ごめん、本当にごめん」

高梨は受け取られないハンカチで僕の頬を拭いた
黙っているから、間を埋めるように言った

「僕が悪かった。高梨のせいじゃないから、全部」

僕は泣くことも申し訳なくて
涙が早く乾いてしまうように瞬きもせずにいた
すると、高梨は真顔で僕の顔を覗き込んだ


「今日はメイクしてないんだ」

「…!」

気づかれて…いた?
いつから?

高梨はハンカチでさらに頬を抑えた

「俺がいるからって我慢してるなら気にするな。
女装でもなんでも、好きな格好したらいいよ」

ぐ、と歯を食いしばらずにはいられない恥ずかしさだった

「紘さん…調べた?」

紘さんから何か聞いたに違いない
高梨は嘘っぽい笑顔を見せた

「まあ、伊達に顔広くないからな…情報には困らなかったけど。ナナちゃん、やっぱり最初はびっくりしたな」

「まさか最初から…気づいてて気付かないフリしてたのかよ!」

ナナは僕のもう一つの姿である。

「うん、でも可愛かったから、言ったらまたご無沙汰になっちゃうかと思って。七瀬、ずっと俺のこと避けてたし」

【まだもってたんだ】

【そんなもん】

大切にしていた指輪をそう言われて、怒らない奴があるだろうか
今となっては、もう…こいつの顔を見ても諦めの念が湧き上がるほど落ち着いてはきた。

「それはお前が…てか、言えよ!気づいてたなら!恥ずかしいな!」

高梨をたぶらかして貶めようとしたはずが、結局怪我をしたのは自分だけだった。

「嘘だよ、あの日は気づかなかった」

高梨は雑誌のモデルに勝る煌びやかな笑顔を作った

「はぁっ!???てめえ…殴り殺されたいのか」

「うわ、口が悪いよ七瀬君!」

「誰だよ!キャラ崩壊してんだよさっきから!
なんか気持ち悪いし変に…」

うん?

高梨が首を傾げた
…なんだろう、これじゃない


「何か?」

高梨はずっと笑っている
…それだ、それがおかしい

「…」

僕は高梨の服に顔を近づけた

「七瀬?」

「…匂いも違う」

「それが?」

「はぁーんなるほど」

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