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触って、七瀬。ー青い冬ー

第23章 舞姫の玉章



「イヴァン…!」

サハルが苦しんでいるのに、私はまだ小さくて
サハルでさえ倒せない相手を一人で力づくで抑えるなど到底無理な話だった


だから私が16歳になって、兄達も18歳に近づいて独立しようというときに私は彼らと抗争した



……



「高梨」


久しぶりに自分から発した名前に、体が驚いた
高梨伊織、素晴らしい外見で僕の心を乱してきた
意味不明な行動で僕を困らせてきた


隣に座る彼は、窓の外を見ていた
僕は、彼の肌を見ていた

この人間は、どこまでも精巧に作られた人形で
瞬きをしないでいるとまさにそのように見えて
一瞬唇や目が動くと

生きてる

と思って、その事実が受け入れ難く
同時に有難く嬉しい

言ってみようと思ったことはなかった
あなたは綺麗だと言ってしまったら
まるでそれだけしか考えていないように思われるかと不安で

でも実際にそうかもしれなかったから
余計に言えなかった

ただ、もしそうだとしても恥じることはないと
思えるようになった

なぜなら僕は、見た目だけが好きな人間がいても
中身まで知ることは永遠にないんだし
逆に見た目がどうも思わない人でも
中身を知ることはないんだから

僕が言えることは、せいぜいその見た目に対しての感想くらいだ

そして、高梨の見た目が好きだからといって
高梨の全てが好きなわけではないから
むしろ、全て嫌いだと思うこともあるから

もしあなたの顔や体が好きだと言っても
高梨が言われ慣れていることも分かるし
言ったところで何も変わりはしないだろうから

だけど、そんな考えを全て否定するように
高梨の容姿に目を向けてはため息をつくだけの僕がいた

関係が曖昧な今
僕が何を考えていようと許される気がした

高梨は僕の声に気づいて目を僕に向けた

「…何だよ」

何故そんなに威圧的なんだ…
確かに助けてくれた?ことは有り難いけど
何が起こっていたのか教えてもらえなかったし
説明もなく、飛行機に乗っているし

「何だよって、どこに向かってるのか聞きたいだけだけど、」

「言わない」

高梨は窓の外の雲を見た

「……」

僕は、胸の中に暴れる魚がいるような感覚で
突然息苦しくなった


「…」

水が、流れた

「なっ…なせ、?」

瞬きもしないのに、雨が降るように涙が流れた



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