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触って、七瀬。ー青い冬ー

第4章 仮面の家族



「七瀬君のクイズ・ショー!!!」




香田が陽気な司会者のようにそう叫んだ。

「今回の挑戦者はもちろん、七瀬夕紀」

僕はすでにボロボロだった。
香田の手下達に無理やり立たされていた。

「七瀬夕紀はホモである。マルかバツか」


「…」


「七瀬夕紀はゲイである。マルかバツか」

「…」

「七瀬夕紀は…」

「黙れ…」


「何ですか?七瀬夕紀さん」

「黙れ」

「残念、不正解。ペナルティはこちら」


香田は、両手に持った缶ビールを僕の前に出した。


僕は唖然とした。
ここまで来るかと。
それでも、暴力よりはマシかもしれないと思った。煙草でないのは不幸中の幸いだ。


「飲めよ」


香田は缶ビールを開けた。

僕は口を開けまいと力を入れた。


「どうしても飲みたくないみたいだな」


香田の目は、僕が抵抗するほど興奮するように光った。


「クイズ、七瀬君はいつまで口を閉じていられるでしょうか」


「1」

香田は僕の鼻をつまんだ。


「2」



「3」



…僕は口を開いた。

「残念、七瀬君の負け」

「はぁ、はぁっ…んぐ、ぐ」

香田は僕の口にビールを流し込んだ。

「っは、はぁ」

苦くて不味かった。
こんなものを好き好んで飲む奴の気が知れなかった。

「もう一息」

「やめっ、んぐっ、ぐっ」

僕の口の端からビールが溢れる。

「…げほっげほっ」

「これくらい飲めば十分か?」

「あまり飲ませると死ぬぞ」

「そうだな、このくらいにしておくか」

香田は僕を徹底的に痛めつけていた。
暇さえあれば。

この時も香田が僕を好きだったなんて、今でも信じられない。

そして、あの日キスを求めた香田の表情は本物だった。

香田は僕を好きだった。

それなのに、僕はここまで痛めつけられなきゃいけなかったのだろうか。

「はぁっ、はぁっ」

僕が苦しむのは、香田にとって喜ばしいことだったのだろうか。

僕は最初、ビールを飲んだという事実だけで気分が悪くなった。
僕にはビールというものに悪いイメージしかなかったからだ。

頭がグラグラした。




気がつくと、香田達はどこかへ行ったみたいだった。

ビールなんか飲ませて、そのことを学校に言いつけるつもりなのだろうか。
一体、香田は何の目的で僕にこんなことをしたのだろうか。






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