
触って、七瀬。ー青い冬ー
第4章 仮面の家族
………
「夕紀君」
「ん…?」
「お家に着いたよ」
僕は飛び起きた。
慌てて窓の外を見ると、たしかに家の前だった。
葉山先生の車の中で、僕は眠っていたようだった。
「よっぽど気に入られたみたいだね。
翔太君、私に名刺を預けていったよ。
彼、男娼の中では人気が一番高いそうだ」
葉山先生は僕にカードを渡した。
【 翔太 】という二文字と、電話番号だけが書かれた、簡素な名刺だった。
「あの、僕はどうして…」
「君が失神して、翔太君が同伴者の私の元へ連絡をしてくれて、それで君を運び出しただけのことだよ」
「そう、ですか」
「…まさか、男娼のステージに行くとはね。予想外だ」
「…これには訳があって」
「とにかく、いい経験になっただろう?」
「…先生」
「先生は僕に何をしたんですか」
「どうして?」
「している最中に、先生の言葉が聞こえました」
先生は僕にたくさんのことを教えていた。
お腹の中に精子が注がれる感覚は、
初めてのものではなかった。
今日、あんなに感じたのは、
一度経験していたからに違いない。
「一度だけ君を犯したことがある」
やっぱり、そうだったのか。
「…いつですか」
「君が15歳の頃だよ。覚えてるだろう」
「…記憶にありません」
15歳の頃なら、はっきり覚えているはずだ。まだ2年前。
先生は嘘を言っているのだろうか。
「ああ、そうか」
先生は納得したようにうなづいた。
「君はその時意識がはっきりしていなかったかもしれないな」
「…どういう意味ですか」
「君は少し酔っていたんだ」
「…先生が飲ませたんですね」
「いや。私がレッスンに来たときには君は酔った状態だった」
「そんな…」
僕は必死に思い出そうとした。
なぜそんなことになったのか。
…そうだ。
あいつだ。
………
