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本気になんかならない

第21章 古りゆくもの

と、廊下に目をやったあと
小浜さんは声をひそめた。

「それとね、彼女のことなんだけど」

そう言って一歩踏みだすので、俺は自然と一歩さがる。
したら、首を小さく傾けて薄く笑った。

…悪かったかな?
でも、近すぎるのは居心地が落ちつかない。
いや、誰もいないこの部屋にふたりっきりの時点で落ちついてなんかいないけど。

理解したのか、そのままの距離を保って小浜さんは話す。

「私、聞いちゃったの。
あのコ、ほかに好きな人がいるんだって」

伏せたり俺をうかがったりと
目を忙しく動かしながら、小浜さんは言う。

「……そ…う」

ツーンと顏の奥に痛みが走った。
鼻と目の間の空洞が締めあげられるような。

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