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本気になんかならない

第29章 オーバーラップ

「なぁ、兄貴」

突然、帆澄が口を開いたので俺はビクッとした。

ちょうどそのとき、
はずしたカレンダーの数字を黒く塗りつぶしていて、
意味のない悪戯がバレたような気分になって。

だけど、帆澄はそんなこと、
おかまいなしで話しだす。

「俺、前の晩。
父さんとケンカしたんだ。

つい俺、お前なんか、大嫌いだ
…なんて、言ってしまった。

事故がそのせいだなんて思ってはないけど、
あんなこと、言わなきゃよかった」

それが、父さんとの最後の会話だったのか?
うつむく帆澄にそんなことは聞けなくて。

きっと、そうなんだろうな…。
それは、悔やむよな…。

これきりとわかっていたなら選べただろう言葉。
しなかった行動。

あの事故からずっと考えていたんだな、こいつ…。
気に病むなって言っても難しいかもだけど

「父さんはわかってるよ。
そんなの帆澄の本心じゃないって。

お前は父さんの反応に傷ついた。
大好きだからこそ、大嫌いって思うことってあるよ。

父さんはわかってるよ。
お前が生意気なことくらい。

だから、気持ちをぶつけてきた帆澄のこと、
父さんは恨んでなんかないし、
仕事が終わったら言いあいの続きをしようって思ってたはずだ」

「続き…は、したくないな…ははっ」

ごまかすように帆澄は笑った。

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