Memory of Night
第8章 花火
人のいない静かな川辺まで走り、晃はようやくその足を止めた。
まだ姫橋公園内だが、出店や提灯などはなく、人もいない。
「ここまでくれば……大丈夫かな」
息を弾ませながらつぶやいて、宵を振り返る。
……が、宵の姿が視界に入るなり、思わず目を見開いてその姿を凝視してしまった。
(……目に毒だな)
辺りはすっかり日が暮れてしまった。
ただでさえ白い宵の肌は、夜の暗闇の中だと余計に際立って見える。
祭の中心から随分と走ったせいで、着物は乱れ胸もとまで露になっていて、いつも以上に色めきだって見えた。
おまけに走った後の荒い息遣い。
つい盛ってしまいそうになり、晃は慌てて宵から目をそらした。
「……宵、前ちゃんと掛け合わせて。男だってバレちゃうから」
宵は面倒そうに片眉をひそめながらも、言われた通りに襟元を整えた。
その間、晃は目のやり場を探して上を見上げた。
空には丸くなりかけた月が浮かんでいたが、まだ満月には少しはやかった。星もまばらで、雲もちらちらとある。