Memory of Night
第8章 花火
ふいに宵は、擦れた方の足を乱暴にベンチの上に乗せた。
ゆかたの裾がわずかにはだけたが、下にはズボンを履いているし周囲に人はいないので気になど留めなかった。
(……熱い)
晃に消毒と言っていじられた部分は、信じられないくらいに熱い。
さっきまで、唾液で濡れた部分が外気にさらされ、冷たくうずいていたのに。
宵は、皮の剥けた傷口を親指の腹でなぞった。
じんとした痛みを感じながらぼんやりそれを眺めていると、ふと目の前をちらちらと漂う光に気付いて顔を上げた。
「……蛍?」
いつの間にか宵の周りには数匹の蛍が浮かんでいた。
蛍の仄かなはずの光も、辺りに街灯が少ないせいかよく見えて綺麗だ。
なかば導かれるように、宵がその光に向かって手を伸ばす。
「ワーッ! ホタルだァ!!」
だが突然、静寂を突き破るような高い子供の声が聞こえて、宵は動きを止めた。
はっとしたように声の主を探す。
いくつもの木の隙間からちらりと映ったのは、薄いピンク色。昼間のあのゆかた姿の少女だった。