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Memory of Night

第8章 花火


「晃! そんなことしなくたっていい! 平気っつってんだろ! 晃!!」


 宵の呼びかけは聞こえているはずなのに、晃は止まるつもりはないらしい。

 数メートル間隔で立っている木に遮られ、その姿はあっという間に見えなくなってしまった。


「……たく。バッカじゃねーの」


 たかが擦り傷におおげさな対応をする晃に、宵は思わずつぶやいてしまう。

 そして、ふと思い返す。

 考えてみれば、今日一日晃は走ってばかりな気がする。


(よくバテねーよな……)


 昼間のうだるような炎天下をものともしない晃の身体能力は、やはりただ者ではない。

 しかもその理由の中には宵のために、というのもあった。

 ご機嫌取りで林檎飴を買ってきたり、髪飾りやカモフラージュのおめんなど。

 そして今は、擦り傷程度のもののための水道を探しに行ってしまった。


(自分の怪我には無頓着のくせに……)


 晃が不良達に殴られた時、腫れた頬も切れた唇も全く気にしていないようだった。

 明らかにあっちの怪我の方が酷かったにも関わらずだ。

 なのに、人のことはおせっかいなほど心配する。

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