Memory of Night
第9章 予感
「……晃と賭けをしてたんだよ」
「賭け? なんの?」
気になって聞けば、宵はまた不自然なほど間を空ける。
「…………ナンパの」
「ナンパァ!?」
「そ。夏休み中どっちが多く女子を引っ掛けられるか勝負してた。負けたら勝った方の言うことを一つ聞くっつー罰ゲーム付きで」
さすがに、ちょっと苦しすぎる言い訳かな、と思う。
でも、今までの晃とのいきさつを全て話す気にはなれないし、だからと言ってこのまま女装趣味の変態だと認識されるのは絶対嫌だ。
明は飲みかけのコーヒーを手に持ったまま、ぽかんとしていた。
宵も、これ以上言っても墓穴を掘ってしまいそうなだけなので黙っていた。
微妙な沈黙の中、突然明が腹を抱えて笑い出した。
「ナ……ナンパとかウケる! くっだらな……っ! しかも何その罰ゲーム!! 大西くんてそんなキャラだったっけ!?」
茶に近いセミロングの髪を揺らし、しばらく笑い続ける明。
ナンパという発言自体が墓穴のような気もしたが、とりあえずごまかしきれたことに、宵はほっと胸を撫でおろした。