Memory of Night
第9章 予感
「――ずいぶん手慣れてるね」
本当に、それはふいうちだった。
突然頭上でした声に心臓が止まるかと思った。
ベッド脇に立つ晃は右手でピンクのファイルと何か資料らしき物を抱え、もう一方の手にはシャーペン。
「これ、宵の?」
差し出されたシャーペンを受け取りながら無言でうなづく。
そういえば床に転がしたままだった。
「明ちゃん、どうしたの?」
「貧血だって」
「なるほどね」
晃は屈みこみ、明の首に人指し指と中指を置く。
「脈は大丈夫そう。……にしてもすごい体勢だね」
呆れたように晃は言う。
確かに、と自分でも思うけれど。
片腕を明の首の下に敷いているおかげで、明の蒼白い顔がすぐ近くにあった。
ずっと中腰でいるのは疲れるので、宵はベッドの脇に膝をついて晃を見上げる。
「……仕方ねーだろ。ここの枕高いし、さっきまで顔が真っ青だったんだよ」
明との体勢よりも、晃にこの状況を見られていることの方がずっといたたまれないのはなぜだろう。
「晃。俺、先生呼んでくるから明見てて?」
「いいの? 俺に女の子預けたら襲っちゃうよ?」