Memory of Night
第9章 予感
真顔のまま、しれっとそんなことを言う晃に宵はがくっと肩を落とした。
「……本っ当に見境ねーなぁ。病人でもおかまいなしかよ」
「冗談だよ」
晃が笑う。久々の笑顔に、つかの間目が離せなかった。
「保健の先生ならセミナー室にいるよ」
「セミナー室?」
それは先ほどコーヒーを買いに行った時に、晃と後輩らしき女子生徒のやりとりが聞こえてきた教室だった。
「今日の放課後保健委員会が開かれるんだよ。その準備。おかげで授業免除だよ」
「保健委員なのか、おまえ」
初めて知った。てっきり生徒会でもやっているのかと思っていたが、考えて見れば晃の夢は医者なのだから、別に不思議なことじゃない。
腕に抱えているのはその資料らしい。
晃は宵に背を向けた。
「俺が先生呼んでくるから、宵は明ちゃんの側にいてあげな」
「あ、おい……」
呼び止めようと身を乗り出せば、明の頭がわずかに動いた。
思わず舌打ちしてしまう。
明を支えている体勢では下手に動けないし、晃の背中はすでにドアの向こうにあった。
呼んできてくれると言うのなら、待っているしかない。