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Memory of Night

第9章 予感


 ずっとこの体勢はしんどいので、宵は明の頭をそっと持ち上げ腕を引き抜いた。

 起こさないように慎重に。

 代わりに枕を敷いた。頬にも唇にもだいぶ赤みが戻っているので、多少頭を上げても大丈夫だろう。

 辺りは静まりかえっていて、雨の音がやけに大きく聞こえる。もしかしたら、雨足が強まったのかもしれない。

 一定に響くざーっという音が、不快なほど耳障りに思えた。

 わずかに眉根を寄せて苦しそうに眠る明の寝顔を見ていると、ふいにそれが志穂の寝顔にすり変わった。たった一瞬、だけ。

 酷く、胸騒ぎがした。

 強烈な、目眩を伴うような嫌な感覚に、宵は無意識のうちに片腕を持ち上げ額に触れようとした。

 その時だった。

 慌ただしい足音と共に勢いよくドアが開き、はっとして振り返る。

 そこにいたのは、晃達ではなかった。


「……先生」


 ドアの向こう、担任の倉木が息を切らして立っていた。


「宵くん……っ、ここにいたのね……!」

「……どうしたの?」


 一瞬、勝手に教室を抜け出したことを怒られるのかと思ったが、倉木の慌て方は明らかにおかしかった。

 ……嫌な予感がする。

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